2013年9月30日月曜日

世界の混沌

核分裂が起こり始めたんでしょう
警報の種類が変わったわ

灰色の雲の垂れ込める海岸は
湾を挟んで対岸にある

アシスタントのミモトが
無表情にそう漏らした瞬間
私は行かなければという衝動に駆られたが
危ない状況に武者震いした

脳裏にあったのは
前回見た核爆発だった

理科の実験室で
水素を作る実験をなぜやらされたのか
今になって分かった気がしたのだった

夕刻へと向かう空模様
未来へと向かっているのか判然としない心模様

自転車で30分
ここからあの海岸までの距離だ
途中には遺跡があり
貝塚も保存されている

百代前の家族は
味噌汁の鍋をかき混ぜながら
獲れたての魚をチンしていただろうか

霞む山の上空で
仙人は見下ろしているだろうか
世間と世界の混沌が
混ざり合う様子を

2013年9月29日日曜日

古びた建物

古びた建物の喫茶店の白い壁に
ぶどうを描いた画が掛けられている

たわわに実った一房のぶどうと
青々とした葉
それに枯れかけて色づいた数枚の葉だ

建物も画も古びているが
その周りでうごめいているのは
いまを生きている人間だ

仲良しカップルは見つめあって話をしている
店員さんは段取りに忙しい

画を描いた人は
どこかで生きているのだろうか

私は画家がぶどうに向かう姿を想像する
画家が画を仕上げて行くときの気持ちを想像する

古びた建物の中で
古びていきながら

2013年9月28日土曜日

もうゆるしてあげても



もうゆるしてあげても
いいのではないか
ゆるしてくれない
あのひとのこと


もうわすれてしまっても
いいのではないか
わすれられないものが
おいてあるあのばしょ


もうかえっていっても
いいのではないか
まつひともない
まちぼうけのこころ

2013年9月27日金曜日

ひねってあるのは

こちらの朝はひねってない
五重塔
ピサの斜塔は
かしげてない

七重塔はすこしひねってある

かしげているのはむしろ
店員さんの笑顔を乗せた首
巻いてあるのは
ゼンマイの時間

2013年9月26日木曜日

8歩目

貯金箱のお金を出して電車に乗って
優雅に暮らすあの人に会いに行った
あの人は僕より高いお茶を飲み
当然の如くお金を払わず扉を開けて外に先に出ていった
百円玉を積み重ねて代金を払い
7歩歩いてさよならを言った

2013年9月25日水曜日

それは世間のことなんだ

それは世間のことなんだ
そこを世間というのです
海辺にできた山脈も
蒼くて高い秋空も
それを世間というのです

そこで生きてる私たち
生かされているきみとぼく
幾星霜の星月夜
かんらからから切なさと
ともに生きてる私たち

君は世間の申し子さ
世間は宇宙とねんごろさ
すすきも螢も王様も
世間の風に吹かれてく
僕も世間の申し子さ

2013年9月24日火曜日

まさかのさかな


まさかさかさまのさかなのなかまはかかさまのさかなかな

かさをささないさかなかな
かさなくなくなくかさかさないさかなかな
さかにさかさにさかんにかしずくかのさかなかな

まさかさかさまのさかなのなかまはととさまのさかなかな

かさをささないさかなかな
かさなくなくなくかさかさないさかなかな
さかにさかさにさかんにかしずくかのさかなかな

2013年9月23日月曜日

聞かせてよ

お母さん 私が子どもだったころの話を
聞かせてよ
意味のないことでいいから
うれしいと思ったことばかりを
聞かせてよ

お父さん あなたがしたかったことを
聞かせてよ
不甲斐ない私を叱ってくれてもいいから
私に して欲しかったことも
聞かせてよ

初秋の街が密かにざわめいている
私たちのことを
見ない振りして
見ているから

2013年9月22日日曜日

おいしくないメロンパン

あの
おいしくないパン屋の
おいしくないパンをたべながら
お茶を飲みたいと思い
恋人と別れてきた

その
おいしくないパン屋の
おいしくないメロンパンを食べながら
うまくいかなかったことが
思い出され
おいしくないメロンパンとともに
反芻され
癒されていくだろう

おいしくないパン屋は
客も少なく
ゆったりと座って
いつまでもいることができたから
おいしくないパン屋は
いつまでもそこにある

おいしくないパン屋の
人気メニューは
おいしくないメロンパン

あの
メロンの香りはしない
おいしくないメロンパンの
やさしさ

2013年9月21日土曜日

言葉は


言葉は 人間が決めた決まりがあって
とても不自由だから
波や風や
鳥の羽ばたきの音で話します

きょうが
いいいちにちでありますように と
あなたが
幸せを感じられることがありますように と