1
生っ白い皮膚のうえ に
白く焼き付いた傷跡
体は揺れて
撓(しな)ってもいるが
思いは
杭が打たれて
揺れられないまま
熟れてゆくのを待つのか
人命救助が趣味のハリー
難破船が漂流する島で
助けを求める人 待ち構えてる
白い庭に緑の芝生がハリーの自慢
相棒は黒人
いまバンブーの箱を海から拾い上げ
芝生の上に持ってきた
ふたを開けると
さあたいへん!
ハリネズミが6匹飛び出した
刺さないでおくれ
噛まないでおくれ
あたふた逃げ惑うふたり
追いかけるハリネズミ
だれも助けてくれません
誰もかばってくれません
ハリネズミに刺されたハリーと黒人
バンブーの箱はもうこりごり
二度と箱を開けませんよ
ハリネズミなんて助けません
と つぶやいて
おんおんないた
体の線に自信がなければ着られないような服をきて
一組の男女がつり革に掴まって揺られている
なんの変哲もないベーシックなパンツとシャツと
それにおそらくインナーとを
その完璧な体型に貼付けて立っている
女も男も
ついいましがた
雑誌のファッションページから飛び出してきたようで
かっこいいこと この上ない
洗練の極みだ
そして急に電車が大きく揺れるたびに
座っている私の眼の高さに女は股間を突き出し
私の視界を揉む
こうして女の股間を鼻先に突き出されることなど
いままでどれほどあったことか
女と男は
電車遊びをしているのだろう
降りていった私を残して
遠ざかりながら揺れに身を任せ
何度もおのおのの股間を
突き出しては笑いお喋りしている
きみはいつ
自分は特別だ
と 気づいたのか
青い海原を跳んだとき
きみの体は逆光に縁取られ
視界の隅に自らの赤を見た
そのとき
きみは
自分が特別だ
と 気づいた
だが
また海に落ちて
群れをなす仲間たちと
一緒に泳ぐしかなかった
きみは特別な
赤い魚
いままでそうと知らずに
青い魚と群れて泳ぐ
特別な赤い魚
誰もがきみを
特別だと思う
まだそれに戸惑う
何もできない赤い魚
あっちのお山と
こっちのお山
どっちのお山がすきですか?
あっちのお家と
こっちのお家
どっちのお庭が広いです?
あっちの人と
こっちの人は
どっちが役にたつかしら?
あっちの仕事
こっちの仕事
どっちが楽ができますか?
あっちの祭り
こっちの祭り
どっちに神様いるかしら?
あっちの理屈
こっちの理屈
どっちも屁理屈屁の河童
涙とさよならして
泣くのをやめたいのに
涙とさよならしようと思っただけで
なおさら泣けてきた
悲しいことが起こる前に
涙と出会いたくなくて
なにも気にしないように
しようとしたけれど
悲しいことは
もう私をどっぷりと覆っていて
涙はすでにあふれ始めていた
それでは私を逃がそうと
考えてはみたけれど
悲しいことも涙も
私から離れることがない
だから余計に泣きたくなって
それを察した涙は
もう勢いよくあふれ
快晴の海へと向かおうとしている
花束を作ります
最初は自分のために
いつの間にかふたりのために
そして最後はあのひとのために
花束を渡しに行きます
花束を持って
会いたい気持ちを持って
そして私ごと渡してしまいます
あのひとは
幸せそうです
幾人かの気心の知れた仲間と
遊びながら
悩みを打ち明けながら
お互いを理解し合っていると喜びながら
助け合って
声を掛け合って
この地に根を下ろして
贅沢はできないけれど
貧しすぎるということもなく
悪いことはせず正直に
得意なことをがんばって
うまい話は疑ってかかり
下手なことはしないようにして
家族を守り
動物を飼い
近所の人と仲良くし
一生懸命仕事して
……
生きていく
これが生きていくということ
つまり
なにも分からなかったということか
ふりだしに戻ったら
スタートラインさえ消えていたということか
おまけに
自分が誰だったかさえも
忘れてしまったというかとか
これ以上考えても
後ろに進むばかり
いいことを思いつこうとしても
後悔したことばかりを思い出す
なにかに頼ろうとしても
なにかに引きずられるだけ
スーパームーンが空で輝いているが
世間の闇が照らされるだけ
心に暗い影ができる
夜の浜で知り合った
しっとりした彼女が
短い言葉を送ってきても
整理できずに放置して
知らない娘(こ)から
メールが届く
空のポストが
声をあげるよ
知らないその娘に
返事を書いた
哀れなぼくに
月も泣いたよ
知らない同士
キスをしました
前の恋人
黙って見てる