2013年3月8日金曜日

たい焼きを焼いています


たい焼きを焼きます
一日900個のたい焼きを焼くのが私の仕事です

900個のたい焼きは
買っていった人を
よろこばせていることでしょう

私はおいしいたい焼きができるよう
いつも考えています
たい焼きを焼くとき
私は生地と餡のバランスと
焼き加減を考えています

繰り返し考えています

鉄板に向き合っていると
顔が熱くなり
休みなく立って焼いていると
夕方には腰や脚が痛くなります

それでも
一日焼き終わり
バスで帰宅するとき
つり革につかまりながら
私はたい焼きを食べる人のことを思うと
疲れさえ心地よく感じるのです

私は休み無く
たい焼きを焼いています
休むことがいやだからです
休みの日があれば
休みの日に何をすべきか
考えなくてはいけなくなります
それはたい焼きを焼くことを
穢(けが)すことになります

私はたい焼きを焼くことが大好きで
天職だとおもっています
それで週5日はデパートで焼き
後の二日はスーパーで焼いているのです
私はたい焼きを食べることも好きですが
一日1枚しか食べません
贅沢に思われるからです
たい焼きを食べるとき
私は神聖な気持ちになり
理想的な家族像を思い浮かべます

私がたい焼きを焼き始めて
長い年月が経ちました
これからも
いいたい焼きが焼けるよう
一生懸命やっていきたいと思います

たい焼き焼きの境地に達し
さらにその道を極めつつ
焼いていきたいと思います

私の焼くたい焼きは
デパートで90円
スーパーでは120円で売られています
これは黒あんの値段です

2013年3月7日木曜日

理解者


ぼくのそばに立って
石を投げてくる人がいる
ボッチャン
ぼくを呼んでいるのはだれ?

わたしのところへ来て
椅子に座って泣き出した子
泣き終えると鼻をかんで
自分を励まして去っていった
あんたはだれ?

池のほとりに佇んで
にんまり笑っている詩人さんは
だだ一人の理解者

2013年3月6日水曜日

すり鉢状のあの子

すり鉢状のあの子に
注意しなければならないと
彼は
思っていたに違いない

落下してきたものは
すべてすり鉢状に固められてしまう
人や宇宙の念にしてもだ
いままで見ることが出来なかったものさえ
すり鉢状に固められてしまうから
物理学者が気づいたら
あの子はひっぱりだこになるだろう

すり鉢状がいつから始まったのか
あるいは始められたものなのかは問題ではない
未来に向かいすり鉢は開かれている
誰かが伏せてしまわない限りは
すり鉢は終わることがないだろう

彼はなで肩の肩をさらに丸めて考えている
すり鉢の謎に
何故近づくことができないのかを

2013年3月5日火曜日

うつ病の友だち



ナイトガウン羽織って暖炉の脇にいる
シャンデリアの照明
湖のほとり
宝石箱や金庫や引出しの棚に納まりきらない宝飾品
財産はそこここに放置され
見張っている者はない

オーディオルームの4Kのディスプレイで
特注でリマスターしたという古い映画を流す
観客は一人だが
もう飽きて
浴室のジャグジーで足の爪の模様を眺めている
そして眼を瞑って
パパのことを思い出すことにした


誰かいい人と巡り会いたい と
月並みな言葉のあとに出てきたのは
車が欲しい というフレーズ
いつも願うのは功名が欲しい という内容だったが
きょうは違った
車が欲しい理由は
いつでもどこにでも出かけることが必要だと思い立ったからだが
すでに思いは
そこにはなかった


うつ病の友だちを思いやって
鬱々としていた
うつ病の友だちは
詩と写真の才能を持っていた
ついでに育ちもよく人気者でお金持ちだった
うつ病の友だちは
何でもよくできた
うつ病さえ克服してしるかもしれなかった

思いやる必要はなかった
思いやる必要はなかった

2013年3月4日月曜日

ストリート・ストリッパー


ストリート・ストリッパー 
スレスレのスリットにノースリーブ
ストレスレスな シースルー
スレンダーでスイート&セクシー

2013年3月3日日曜日

朝 私の 1


戸がガタガタいっている
戸はおはようと言えないだろう
私はおはようと言わずに書く
おはようと言う相手がいないからだろう

戸はガタガタいうのをやめた
風が止んだからだろう
私はカタカタとキーを打っている
ガタガタいう必要がないからだろう

朝は忘れずにやってくる
私はよく忘れるのに朝は忘れない
朝は目覚めを与え闇を追いやる
私は朝の光に追いやられる人間

2013年3月2日土曜日

いいわけ

イイワケを考えているんだね
いいいいわけがみつかったかな
いいいいわけがみつからないと
いいわけをしなくちゃならないよ
いいわけは得意じゃないんだね

2013年3月1日金曜日

逆光の少女


最後のチャンネルを切ってしまったら
戻って来れなくなるかも知れない
それでもあなたは
かつて世界と結んでいたチャンネルを
いとも簡単に切ってしまった

これで私の方からあなたを探すことは
永遠に たぶんできない

あなたは遊びのように
無邪気な笑みさえ浮かべて
チャンネルを次々と切った
その瞬間ばかりは
人には見せられない鬼の形相で

ひな祭りに
桜餅を食べてお祝いするなどということは
呪い歌の中にしか既にない

スケート靴で氷上を走り抜け
逆光の湖上にはもういない

鬼の香りだけが
少女の血を現していた

2013年2月28日木曜日

ルビー色の血が


ルビー色の血が
珠になって
転がって行くのは
あなたの肌のきめが細かいから

それでいてしっとりしているのに
血の珠は交わらない

強い意志を抱え込んで生きている
あなたと同じ

だが
引力には逆らえない
あなたも
この血の珠と同じ

2013年2月27日水曜日

死にたがりやさんへ


死にたがりやさん
私もそうだよ

欲望が強くて
抑えられない

立ち止まって
青空を見る

誰かに分けてあげたい
願望が目覚める

この宇宙に生きて
幸せ

死にたいのは
そのせい