2012年2月22日水曜日

衣服の下が

衣服の下がどうなっているのか
私は知りたい
少し露出していて
カタチは現れているけれど
そこはかとなさすぎて
全体像を結ばない

透視するように
触診するように
その衣服の下の様子を
間近で感じ
問いながら
確かめながら
知りたい

誰をも介在させず
時間にさえ邪魔されず
記憶力も味方に引き入れて
その色と質感
触感も総動員して
私の中心部に定着させたい

あなたは
私の問いに答えなければならない
答え続けなければならない
外界との通信を断ち
私の探求に身を任せなければならない

衣服の下がどうなっているのか
あなたは
最後までその衣服を
枯葉のようにハラリと床に落とすことはなかった

私は無力なのだ
衣服の下に
エネルギーがあり
そこに行きつかないまま
燃料切れしてしまった
ポンコツ自動車のよう

2012年2月21日火曜日

私はあなたを愛していると思った

愛していると思っていたら
いつの間にか冷めていた
だが
カフェのカウンターで
コーヒーを飲んでいたら
また
愛していた

愛している感情に溺れて
白いシーツのベッドから
木の床に降りた
降りてから
部屋を歩き回っていると
余計に愛していると
思えてきたが
あなたからのメールを受け取り
きょう会えるかも知れないということになったら
愛は冷めてきた

風の吹く街を
仕事がうまく回らないと
ふてくされて歩いていたら
あなたが
自分の同志のように思えてきて
一緒に勇気を出すんだと
信じられることが分かった

あなたは
待っているという
さっきまで
こちらが待っていたのだ
あなたは
自分の好きな場所で待っている

好きな場所で待つとは 
素晴らしいことだ
私はあなたを愛していると
思った

2012年2月20日月曜日

雨には濡れずに

敗北感という上着でも
外に出るときは
着ていたほうがましだろうか

胸ポケットに
ボールペン差して
なにかあったら
書いてやるぞという勢いで
せめて約束したことを
別れないように
メモする

もらったものは
鞄にしまい
食べられるものは
食べる
いらないものは
いらないことを確かめて
すててやる

自分をすてることは
できないし
迷惑だから
食べられるものは食べ
いらないものは捨てることで
バランスをとる

バランスも
いらなくなるだろうか
そのうちに

ベランダに置いておいた
物入れが
雨にぬれて
まだ何も入れていない
物入れの中の空気を守っている

私は
雨には濡れずに
何を守っているのか

元気?

元気?
美しい笑顔であなたは私に訊く
その「元気」とは
どれほどの
どのような「元気」を指しているのだろう

私はいつも黙りこみそうになるが
やっとの思いで
元気だよ
と こたえる

こたえて
嘘っぼくなかったか
いつも心配になる

私は元気なのだろうか
そう訊いてくる「あなた」は
きっと「元気」なのに違いない
私はあなたに
「あなたは元気?」
と聞き返す

会話が氷の上を滑っている
あなたはすかさず笑顔で答える

そして
ポイントを切り替えるのに一瞬の間を置くことになる
次に言葉を発するのは
あなたの方と決まっている

あなたが言葉を発する時
私は決まって準備ができていない
そして
あなたが発した言葉は
私の尻を浮かせる

私達が乗ったジェットコースターは
いきなりクライマックスの急降下なのだ

遠くでとびたった鳥の群れが
どこに行ったのか
その答えも見届けぬまま
私たちは加速度に振り回されるのを誤魔化して
階段を降りて
地下鉄に乗るのだ

2012年2月19日日曜日

私という歯車

私という歯車は
必要ですか
磨耗したら取り替えますか?

えっ!
磨耗する前に取り替えるんだ
えっ!
昨日もう取り替えてたんだ
本人にはなにも告げずに

2012年2月18日土曜日

曇り空

薄暗い夕方に
窓の向こうの花壇の向こうの
松の木の向こうの芝生の向こうに
水仙の葉っぱがざわめきながら揺れていた

その仲間に入ることができないと
悔しがっていたのは  ぼく
母と妹の気配を隣室に感じながら
いつも何かを見つめていた中2の春のこと

今あの場所はもうない
あの窓は壊され庭は整地され誰かの家が立てられた
玄関の扉はぼくたちにお別れを言っただろうか
聴こえないほど小さな声で

路上に駐車した預かりの車の中から
切り取られたどんよりした雲を見ていると
ミルクセーキを思い出す
牛乳と卵はいまも変わりなくスパーで売られているが
雲は変わってないだろうか

四カ月を遠い異国で過ごし
住み慣れたここに戻ってくると
ここは
なにも変わっていなかった

私は  何かに
だまされているのだろうか
私は私に質問することができない
何かのバリアに弾かれるのは
忘れてしまった約束の
仕返しなのだろう

2012年2月17日金曜日

こんな気持ちで立ち止まるのは初めてだ

改札口で立ち止まった
こんな気持ちで立ち止まるのは初めてだ
これからやるべきことは分かっている
たやすいことにちがいない

右手がポケットのなかで
携帯を握り締めている

足を互い違いに出して
前に倒れこめば自然と歩いて行けることもわかっている

だが最初に倒れこむ勇気が
いつから身についたのか
たどってみても何処にも行き着かないのだ

不幸な友だちのことと
不幸な幸せのこと を考えても
雑踏はその形を変えながら
いつもと同じように人々が混ざっているだけで無関心だ

ビルのガラスに夕日は反射するだろう
ガラスのビルにこの街は映り続けるだろう
ビルのガラスは気候の変化に不満はないだろう
ビルのガラスは中からも見えるだろう

夕日は背中を押してこない
前から眺めているだけ

靴紐がほどけたら
どうやって結んだらいいだろう
目的地に着いたら
どうやってカバンを下ろしたらいいのだろう

改札口は口を開けて
呼吸をしている
風邪を引いた人が
出入りしている

前から
お迎えが近づいてきた
こちらを見つめながら小走りでやってくる
この人のいうことを聞けばいいのだ
脳を平行移動させて行けば
何処かに無事にたどり着く

そこでやるべきことをやって
その幸せをかみしめて
家に帰ればいいだけだ
目を瞑って眠ればいいのだ
傷は癒えるものだ
むき出しの部分は
傷つくことを
いつでもやさしく受け入れている

2012年2月16日木曜日

学ぶ人へ

自然なことばで
話ができれば
あなたは合格

ドアの外に出ることと
中に入っていくことを間違えなければ
きっとうまくいく

ありがとうとすみませんの
意味の差も理解しているね
愛されると愛するの違いも

今夜は
明日の夜より
寒い

明日の昼は
昨日の朝より
あたたかい

日に日に気候は暖かくなり
あなたの影は短くなって行き
言い表わせる事柄が増えていく

それは変化と呼ばれるが
あなたの成長と競争している
とも言える

あなたは学生だ
それでいいよね
学生さん

2012年2月15日水曜日

あなたの朝と私の朝と

白い布にピッタリと覆われた丘の向こうから
日が登ってくる
風に草むらが揺れ湿り気を発散する
その香り
懐かしい夏の誰もいない朝の海の香り
あなたのそばに
私はいるようでいないのは
私はあなたの中にはいりこんでいるから
そのまま眼を開けないで
開ければ
ものがたりをまた最初から語り始めなければならないから

2012年2月14日火曜日

バケットを抱える私

ひとにもらったバケットを抱えて
雨上がりの夜道を帰るのは気分いい
しくじってけなされてバカにされたけど
足取りは軽い
強い北風がたまに吹くが
寒くはない

バケットを
バズーカ砲みたいに持っている
あした
ムシャムシャたべるのだ