2011年2月8日火曜日

亀と猿

ハラハラドキドキ
カミツキガメが逃げ出した
いきなり噛みますので
ご注意ください

寝ている間に
噛まれた人もいます
友達を噛まれた人もいます

カミツキガメは
神出鬼没で
修学旅行の学生のカバンの中にも
入っていたことがあります

OLのかすみさんは
フライパンだと思って
火にかけて気づきました

落ちこぼれ小学生の雷太くんは
おもちゃ箱の中のブレードを取り出そうとして
亀に噛まれました

サラリーマンの小千谷さんは
帰り道で小便をしようとして
噛まれたそうです

カミツキガメの噂がもちきりとなった街に
それに嫉妬したカミツキザルが現れました
すっとんでやってきて
腕やお知りに噛み付きます

すっぽんにも噛み付きます
釜にも噛み付きます

だけれど
カミツキザルとカミツキガメは
お互いを噛まないのだそうです

明け方近くに
今日も眠りにつこうとすると
どこからか
噛み付く気配を感じました

しかし眠さに勝てず
すーっと眠りの中に落ちてゆきました

すると
一緒に眠りの世界に
落ちてゆく亀と猿を目にしたのです

2011年2月7日月曜日

ただなにかだいじなものをしまいたがるだけで

開いていたものを閉じるとき
そのなかにモノを収める
そのことを「しまう」というのかもしれない

閉じていたものを開き
その中からモノを取り出すとき
そのことはなんというのだろう

きみはそんなことにはお構いなしに
入れたがってばかりいるのではないのか

回転しているものの上で
行ったり来たりしながら
きみとぼくはふたりで思案に暮れる

周りにはそうした人がいっぱいだ
その人達はテーブルの影で
当然のようにお互いを握り合っている

きみは
ただなにかだいじなものをしまいたがるだけで
他のことに興味がない

ぼくはきみがしまうものを探すのに熱中するばかりだ

2011年2月6日日曜日

待ち合わせ

時計のある塔の下で待ち合わせをしましょう
幾多の恋人たちがそうしてきたように
遠くに見える噴水や
石作りの回廊を眺めながら
一枚の絵の中に
私たちを美しく閉じ込める準備をして

お互いを発見したら誰もがそうするように
軽く手をあげて笑顔を見せましょう
それがきょうも始まりの合図です
いつ終わるともしれない刹那の逢瀬の

私たちは名前も所番地も捨てて
ただの愛し合う恋人同士となり
あの街並みの人混みの中に入って行きましょう
私たち自身も見失うほどお互いの中の街に溶け込むように

2011年2月5日土曜日

名作誕生シリーズ

アッ
あそこで名作がうまれている
アッ
でも誰もそれに気づかない

アッ
ここでも名作がうまれた
アッ
でもそれは僕の勘違い

2011年2月4日金曜日

2010年2月4日に来た手紙

封を開ける前から手紙がサヨナラを言っている
寒い夕に届いた薄い桜色の封筒は
あなたからとびたったひとひらの花びらなのか

夜の暗いトンネルを抜け
寒い人ごみの雑踏を抜け
ポストにやってきた
ため息のようにポトンという音を響かせて

封筒は季節を映して色を変えてきた
まるで映画の予告編みたいに
これからのふたりの未来を見せようとしていたのか

最後の手紙はいつもと同じブルーブラックの宛名
よく似合う花の切手にあなたの地名
なんど行ったことだろう
何度行くことだろうと思いながら

2011年2月3日木曜日

スキを狙って

私の値段は幾ら?
とても大事なことなのに
そのシステムの中で自ずと価格が決められてしまう
自分には抱えられないほど
大きくて小さな私なので
私の価値はさまよう
キスをする時は別世界が入ってくるので
伸ばした手に引っかかった紐を指に巻き付け
それを頼りに戻れるようにするけれど
有効かどうかは分からない
戻った場所が元の場所なのか判断がつかないからだ

相手はなにを考えているのだろう
いつも少しだけ興味を持つ
でも尋ねる術が思いつかないので
なるがままいる

私の名前はキミという
私がキミなんて
たまにこんがらがる
どうでもいいことだが
何か深い意味があるのだろうか
たぶんないだろう

幽霊を見たことはないが
私は幽霊のようにあなたの前に現れる
初めて私を見たあなたは眼を輝かせて
落ち着きなく紳士を気取る
または気取りなく話しかけてくる

私はあなたの指の一本を握り
半分を自分のために使おうとするけれど
ごちゃごちゃになって
何人もの私が現れるので
結果はわからずじまいだ

私には価値があるとみんなが言う
私もそう思う
私はやりたいことをやる
そのためにやりたくないこともやる

ただ たまに
その二つは入れ替わる
私の許可なく
私が忙しいスキを狙って

2011年2月2日水曜日

こまどり

こまどり
こまどり
こまどり
こまどり

きみどり
ぎみどり
きみどり
きみどり

くさいろ
くさいろ
くさいろ
くさいろ

2011年2月1日火曜日

帰り道

夜道をゆっくり歩いて帰っていく
パンの袋を破ってパクつきながら
空にはお月さん
通りの向こうにはコツコツ音を立てて急ぎ足の女
間をバイクが通る
私はそろそろすり足気味で歩く
手にコンビニの袋揺らして
コンクリートで覆われた橋を渡る
パンはおいしい
部屋についたら灯りをつけて
暖房をつけて
トイレに入る
トイレには綺麗な神様がいるから
だれかがそういっていたから
そのあとは
眠くなるまで起きていたら寝る
それまでの間に何が出来るか
眠った後にすることよりいいことができるか

2011年1月31日月曜日

難しい質問

世間はいいものですか
爽やかな風が吹いていますか
励ましあっていますか

大事なものをみんなで守っていますか
強欲な人に牛耳られていませんか
ズルをする人は損をしていますか
夢を持って生きてゆけますか

嫉妬ややっかみに苦労させられませんか
心ない罠を仕掛ける人はいませんか

子供の笑顔が守られていますか
人の気持ちや尊厳が大事にされていますか
理不尽なことに埋め尽くされていませんか
敵と味方に分類ばかりしていませんか

自分だけよければいいという行いが蔓延していませんか
無意味な破壊行為を繰り返していませんか
欲望にまみれて幸せを見失っていませんか

自分を本当に大切にしていますか
きょうを素敵に過ごしましたか
明るい明日が迎えられるように

2011年1月30日日曜日

ポッカリあいた穴

詩人が青空に白い雲があると言う
それで私は空に雲があることを思い出して
見上げてみる

空は青い
その言葉のせいかどうかはわからないが
確かに空は青いと思われた
その青空に
雲が幾つか浮かんでいる

詩人は
雲は地球に張り付いているようだと言う
浮かんでいると言うより
張り付いていると言う

なるほど
雲は地球にへばり付いている
そして青空は消え
群青の宇宙が広がっている

詩人はつづけて言う
宇宙は飲み込めるよ
大きく口を開けなくても
小さなカプセルだから大丈夫と

私は手渡されたその小さなカプセルを
唾と一緒に飲み込んだ
すると一瞬にして私は
宇宙の外側になってしまった
自分の意思が宇宙を形成しているようだ
星々の運行やその色
生命の生き死にも

詩人は言う
私は詩人ではないと
私は旅芸人だと
そして もう
旅の一座となって去って行こうとしている

私は引き止めたかったが
引き止めることはできないと感じていた
さびしさが溢れてきた

私は私にあいた穴から
青空を見た

ポッカリとしていた
穴から覗いた地球の風景