戦争が廊下の奥に立つてゐた
渡辺白泉
当たり前の日常のなかで
戦争が目撃されるようになったことに
気づいた時には
もう
戦争が始まっていた
私たちは
学校では戦争の仕方を習わなかったから
知っている人に頼らざるをえない
人の命はとても重いと
世の中は私を教育してきたので
私は安心して
そんなに重いとは思えないと
思うこともできた
ほら
やっぱりそうだった
友だちの顔を見ると
戦火にもう赤く照らされている
そういう私も
重い鉄の塊をもって
途方もなく疲れているようだ
小さな子どもたちが
大人に何かを訊ねているが
けむにまくしかないようだ
あの俳句
昔
聴いたあの俳句を読む声が
また再生される
戦争が廊下の奥に立つてゐた
私も
その廊下に立っているのです
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