2012年11月9日金曜日

社長、あなたへの復讐

社長、私の気持ちがわかりませんか
あなたは
確かに私に優しいし
世界中のいろんな所に連れて行ってくれて
綺麗な景色や雄大な絶景や誰もいない海や
サバンナの草原も見せてくれました
きっと私一人では行くことが出来なかった場所

そしてあなたは私を愛してくれたし
いまも愛していると思う
だけど
ちょっと強い言葉になるけれど
あなたは勘違いしていると思う
バカにしているとおもう
人の気持ちや真面目なお勤めや一般人の考えることを

あなたは長財布にいっぱいお金やカードを入れている上
マイルやスタンプカードも細かく集めていて
無駄遣いもしないし節約もするけれど
小市民の楽しみを理解して古着も着るしB級グルメも食べるけど
女の子の好みもつぶさに調べて
私をびっくりさせるけど
私は不満がどんどん溜まっていっていることが
理解できないのですね

社長
あなたの会社はとてもうまくいっていて
業界からの期待も大きいけれど
あなたは仕事も一生懸命やるし
私のためにもたくさん時間を割いてくれるけど
私は不満なのです
あなたがなんでも上手くやってしまうところに
するするとすり抜けてしまうところに

あなたは友だちも大事にして
昔のサークルの友だちとはいまも釣りをしたり
飲みに行ったりしていますよね
そして決まってその帰り道に
私にメールをくれて
おみやげを持ってきてくれます

そんなことしなくていいのに
嬉しいけれど
無理しているように見える
上手く伝わるかどうかわかりませんが
もっと正直に
凄くやりたいことだけやってほしいのです
細かいことはいいから

社長 あなたは
私が不満を持っていることに耐えられないでしょう
私はよく分かっています
それも贅沢な不満です
でも
それだけに私にも始末が悪いと察してください

あなたは
じゃあ どうすればいいのだ と すぐ言って
それを解決しようとするでしょう
でも 解決しないで欲しいのです
私に不満を持ったまま
いさせてはもらえないでしょうか
きっとあなたにとっては我慢ならないでしょうね

そう言うと あなたは
我慢してもいいし 我慢するより
我慢しなくていいようにする と
言うでしょう

いいえ
私は 不満を持っていたいのです
その不満を持ったまま
あなたと付き合いたいのです
あなたが その 私の不満に
耐えて欲しいのです
耐えてでも 私を愛してくれるなら
私は いまより
もっと幸せに
不安な気持ちが薄れて
あなたと 初めて深い話が
不器用でもこころの通った話が
できると思うのです

だめですか
無理でしょうか
無理しないでください
いいえ
無理してください

理不尽な私の願いを
私と一緒に
抱いてください

私は 社長 あなたに
復讐をしたいのです
勘違いして
私を釘付けにして 身動きが取れない女にした
あなたに復讐を

2012年11月8日木曜日

暗黙と沈黙の上に

誰からも許可をもらわないまま
生きている「私」

勝手に生きていて
いいものだろうか

なんとなく勢いで生きているが

時に想念の強い波動に溺れそうになったりするが

暗黙と沈黙の上に布団を敷いて
今日も眠りにつくだろう

2012年11月7日水曜日

ある 日の 午後

あひるが 手のひらのパンを食べるよ

あひるは
くちばしは黄色くて
軟かい木のおもちゃのよう

手のひらに握っていたスマホは
私を呼んでくれないから
机の上に放置してきた

それと一緒に
きのうまでのわだかまりも

あひるの くちばしが震えて
パンを喉の奥へと送っている

あひるは 食べる時
手を使わない
あひるは 直接 地面に置いてある

脚の上に置いてある
アヒル形の あひるが
直接 パンを食べている
ある 日の 午後

2012年11月6日火曜日

この国の人


丈夫できれいなお家を造りました

外国から舟で運んできたデザインのいい上等な家具と

カーテンとベッドと布団も食器も買いました

いい音のするスピーカーとアンプも揃えました

カラーコーディネートやガーデニングを学び

見えない部分まできれいにしました

この国のいいものに

よその国のいいものを組み合わせて

上手に調和させていきました

 

ある人は

そこまでお金をかけることができないから

機能的で快適な家を造りました

そしてその場所を一生懸命掃除しました

自分の家のない人も

大概 部屋を借りて

生活をよくしようと頑張りました

 

道は整備され鉄道は敷かれ

電気と下水道が整備され

インフラが充実して行きました

ときには無駄なものも造りましたが

必要と思われるものを先回りしてどんどん造っていきました

そして最後に造るものがなくなってしまいました

 

それでも

隙間を見つけては

造り続けていこうとしました

しまいには 造っては壊し

造るために壊し

訳も分からず 更新して

見捨てられたものだけが

古びて行きました

 

造る力は有り余っているのに

造るべきものがなく

とうとうお金も回らなくなってしまいました

しかし権力者は

お金を着服し続けました

我儘に 好き放題に

お金の力でお金を集めました

 

この国を旅しに訪れた

旅人は思いました

 

この国はなんと美しく行き届いていていることか

いいものが

溢れかえっている様子に

驚きながら

この国の人の泣きそうな顔を眺めていました




2012年11月5日月曜日

死にたい

死にたい
というのが彼女の声に出さない口癖

死んでしまった方が楽だろうか

確信が持てないのは
死んだことがないから

死ぬと
体から魂が離れて
楽になるというが

眩しい光やお花畑のいい香り
懐かしい人や風景に出会える
生活のためにいやな仕事をする必要もなくなる

しかし
楽したいから死ぬのかというと
ちょっとちがう
そんなに楽をしたいわけではない

世間の建前では
人の命は大事なものだ
尊厳や夢よりも上位だ
何千何万人の不都合よりも
うず高く積まれた札束よりもだ

生きている価値のない人間でさえ
価値ある人間と同じく
殺すことはできない
死ぬ価値がある人さえ
殺すことはできないのだ

老人になって
世間が賞賛する仕事を初めてしてしまうことがある
それが棚ぼたや偶然でも
そういうことがあると
本人も自信をもち
生きていてよかったと満足する

楽したい
死にたいと
ずっと思っていたとしても
それはご破算となり
生きることの快楽に執着する

さて
白鳥と鶴は別の鳥だっただろうか
鶴のことを白鳥の一つと
勘違いしていた男は
自分と他人の区別もできずに
考えている

彼女はさっきから朝焼けの天空の下で
茫然としている

生きている価値がある人と
死ぬ価値がある人を混同しているのは
誰だい?

2012年11月4日日曜日

明かりの見えない森のなかに

明かりの見えない森のなかに
投げ出され放置された人

昨日までは毎日宴会をして
いい酒を飲んでいた

身ぐるみ剥がれて猿ぐつわをされ
縛り上げられた人

昨日までは笛を吹いて
威張っていた

苦しさの極限にいる人
絶望に覆われた視界
ただ明日を夢みるばかり
昨日に帰ることはできない
明日の日がくれば
明後日になにを思う
腐りかけた豆乳が冷蔵庫で待っている

2012年11月3日土曜日

5角形の白い扉

私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。

逃げ込んだ家は郊外の小高い丘に続く緩やかな坂道の途中の
低い崖の上にあり道路を挟んで向かい側に空き地があった。
その空き地は駐車スペースに利用できたので、いつも何台かの車が停まっていた。
昨日降った雨で駐車スペースはすこしぬかるんでいた。
晩秋らしく枯れた夏草が無秩序に生えていた。

家の扉は「5角形の白い扉」で、目の高さに明かり取りのくもりガラスが埋め込まれていた。

80年代生まれの女、Rと私はフローリングに置かれたベッドの上でむさぼり寝ていた。着の身着のままでここにやってきたので、彼女は昼間のままの服装で、下だけ脱いでいた。何かの気配で目を覚まし、危機が迫っていることを察して目を見合わせた。
今まで眠っていたと思えぬほど凛々しい表情で、互いの動きも素早かった。

私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。
次の瞬間、私たちは身を縮めて豆粒になり、そこに飛び込んだ。
その瞬間、遠くでドアを叩く音がした。

ドアを開ければ放射能が入ってくることは間違いない。それを伏せておいて、刺客はドアを叩いて、やがては、壊して入ってくるのだ。

刺客が入ってきた時、私たちはすで裏をかいてに駐車場に来ていた。素早く車に飛び乗って走り去らなければならない。
彼女はすでに飛び乗って態勢を低くしている。
私は一気にかけ出して乗り込むと、キーを挿してエンジンを入れ、アクセルを踏み込んだ。

追っ手は追って来なかった。

2012年11月2日金曜日

世の中に弾かれて

世の中に弾かれて
自分から出ていった

スピードに乗れなくて
脇道に入っていった

言い訳をしたくなくて
黙って座っていた

争いが嫌いなので
花の種を配った

青空が好きなので
雲と一緒に消えていった

2012年11月1日木曜日

その愛は

その愛は伝わりすぎる
いつまでも胸の中に
とどまっていることができない

その愛は激しすぎる
いますぐに縄を解かないと
引きずられて怪我をする

その愛は強すぎる
すべてを巻き込んで
吹き荒れて撒き散らす

その愛は死ぬことがない
あなたが死んでも
生きて愛し続ける

その愛は眩しすぎる
その愛は伝わりすぎる

生きる 雑念

生きていても
死んでしまっても
人に迷惑がかかるから
ただ慣性の法則に従うのだと
理屈をこねくり回して
毎日をやり過ごしているが
食欲を始めとしていろんな欲求が湧いてくるので
頭や体の働きもそれに任せて生き延びている

嬉しいことも
悲しいことも
楽しいことも
いらいらすることも
辛いことも
どうでもいいことも
毎日やってくる

知人や友人たちは
どうしているのだろう

長年仕事をしてきた人たちは
それなりに形になって
周囲に認められ 尊敬もされ
稼ぎや蓄積もあるだろう

あと1本糸が切れたら
自分は奈落の底へと落ちる
その一本にすがって
不安に揺れている

もし死んだら
生まれ変わるだろうか
それとも知らないうちに
誰かの人生を引き継いで
その命をやっていくのだろうか

神様に知らされることもなく
何の記録も遺らない状態で

意識が舟だとしたら
私は漕ぎ手なのだろうか

明日はやって来るものではなく
静止している風景なのだろうか