2012年4月30日月曜日

夜眠る方法 の習作

たとえば目を瞑ると見えてくる森の中の一本の木は
高度な生命装置であると言ってよい
葉脈が張り巡らされているその様は
幼児の絵のようにいびつで自由奔放だが
きちんと葉は葉として生き永らえ
その与えられた役割を果たしたのちに
枯れて地面に落ち次の生命を育む要素となっていく

どこからどこまでが自分の生命と言えるのか
その疑問を差し挟む暇もなく
生き物たちは生きて死に
他者の生に命を混じえ響き合い歩をすすめる

一枚の葉と葉脈
今はただ母なる木の一部として
陽の光を受け風に湿気を発している
雨の日には雨粒を受け止め
風が吹けば身を翻してささやきを伝える

人である私は木の傍らを過ぎ去り
いつか木のことを頭の中に思い浮かべては
その美しさの訳をこねくり回す

木より粘土に近い私は
地面の近くで泥と一体となって
やや明るすぎる夜を眠る
体の中にある眼を見開くことはせず

2012年4月29日日曜日

心を容れる器をください

心を容れる器をくださいって言ったら
〈心が器でしょ。器を器に容れるの?〉
と言われてしまった。それでちょっと沈黙してしまったんだ。
彼女は器をくれる代わりに彼女が焼いたパンを出してくれた。そのパンの美味しいのなんのって。何もつけなくても、小麦と炎の香りがして、幸せな気分になってしまった。
そして彼女は唐突に音楽をかけた。心地よい音量で。左右のスピーカーから違う音が聴こえてきて、私はその場からどこかに飛んでいっでしまいそうになった。
私は、でもやはり、心を容れる器が欲しいと望んでいた。

私ごとでもいいから、器にいれて、タンスの上のほうにでも、しまってくれないか。

クラシカルなモダンなロマンチックなロハス風

彼女は立っていました 第二草稿

傘をさすほどの雨ではありませんでした
さびしさを胸に詰めて
彼女は用もないのに
人ごみの中に立っていました

お遊戯の踊りをするみたいに
時々体をひねり
控えめなステップを踏みました

女友だちたちは
いまごろどこで遊んでいることでしょう
満たされないと悟った彼女は
ここに立っていることにしたのです

誰かが声をかけてくることもあるでしょう
いかがわしいところに連れて行かまうかもしれません

でも彼女は気にしない
気にできない
彼女はただ立っていることに 全力だから
なぜ立っているのか
分からないから

夕闇が夜の空気を連れてきて
彼女のさびしさは
胸をはちきれさせます
そのせいで
息が苦しいけれど
まだ彼女は立っています

彼女が去ったあと
その場所には
今度は彼女の胸から
溢れ出したさびしさが立っています
次に立つ人を
選別するために
眼差しを路上に投げかけて

2012年4月28日土曜日

彼女は立っていました

傘をさすほどの雨ではありませんでした
さびしさを胸に詰めて
彼女は用もないのに
人ごみの中に立っていました

お遊戯の踊りをするみたいに
時々体を揺らしてひねり
控えめなステップを踏みました

女友だちたちは
いまごろどこで遊んでいることでしょう
満たされないと悟った彼女は
ここに立っていることにしたのです

誰かが声をかけてくることもあるでしょう
いかがわしいところに連れて行こうとする人もいるでしょう
でも彼女は
ついて行きません

彼女はただ立っていることに
全力だから
なぜ立っているのか
分からないから

夕闇が夜の空気を連れてきて
彼女のさびしさは
胸をはちきれさせて
そのせいで
息が苦しいけれど
まだ
彼女は
立っています

彼女が去ったあと
その場所には
今度は彼女の胸から
溢れ出たさびしさが立っています
次に立つ人を
選別するために
眼差しを路上に投げかけて

きょうの当番

当番の猫が帰ってきた
すこし濡れているようにみえる
天気予報に反して
雨が降ったのだろうか
声を掛けたい気持ちをおさえて
わたしは部屋に籠る

にゃああ
鳴いているのはわたしだ

2012年4月27日金曜日

2012.4.27

当番の猫が帰ってきた
すこし濡れているようにみえる
天気予報に反して
雨が降ったのだろうか
声を掛けたい気持ちをおさえて
わたしは部屋に籠る
ああ

2012年4月26日木曜日

当番

猫のあし音が
遠くから近づいてきて
私の前でピタリと止んだ

きょうは
私が「あたり」
一日
あの人とお付き合い

凶とでるか
吉と出るか

その答えは
明日の当番猫だけが知っている

2012年4月25日水曜日

意味の風

女を守るために
を殴られている男は
訳あって抵抗もせず
相手の思うがままに痛めつけられている

容赦なく相手は殴るので
男のダメージは増していく
同じ部分を繰り返し殴られると
その痛みは男を気絶させそうになる

守られる対象である女は
ここにはおらず
このことを知らない

いつまで続くのか
男の骨は折れ
筋肉は炎症して腐り
二度と立ち上がれなくなってしまうかもしれない

男はなぜ耐えているのだろう
相手はなぜ痛めつけ続けるのだろう

そこに
なまあたたかい風が吹いてくる
何を意味しているかは
だれにも考えられない
たが何かを意味しているのだろう
意味というものが人の求めるものであるのなら

2012年4月24日火曜日

私について言えること(きょう現在)

隣りの家までは
庭を越えて25年
トイレには船が浮かんでる
体育館の広さの更衣室
杉田かおるの付き人だが
偉大な詩の賞を受賞
通り沿いに持っている貸し部屋は不動産屋として最適の仕様
鍵のかからないトイレで
記者の帰りを待つのは
急な受賞のニュースを聴いたから
ピンク色のカーテンが揺れて
その襞の一つに
グランドキャニオン型のウサギ小屋が12箇所あり
1箇所あたり駱駝を12頭飼う
週末に出勤して火曜日に帰宅
ゴミの日は年2回
紙飛行機は二人乗り