2013年9月10日火曜日

私はただ



初めて会ったとき
あなたは「さよなら」と言った

そして別れるときに
「よろしくね」と手を差し出した

私はただあなたのくちびるを見て
手を握った

2013年9月9日月曜日

秋の日が来なければいい


秋の日が来なければいい
冬の日も春の日も夏の日も来なければいい
何も来なければいい
ただあなたさえここに来てくれれば

2013年9月8日日曜日

私は道を歩いている


私は道を歩いているつもりでいるが
すでに体はどこかに置き去りになり
観念だけが道を進んでいる

私の観念は道を進んでいるが
道は堂々巡りに繋がっていて
私はいつの間にか後戻りしている

私の観念は堂々巡りで歩いているが
観念はいくつかに分裂していってしまい
私は複数形になっていてどの私が思っているか
分からない

2013年9月7日土曜日

私はいまから命を奪われるところだ

私はいまから命を奪われるところだ
いつものように道を歩いているが
まもなく(どんな方法かは知る由もないが)私の命は奪われる

なぜ奪われるかもはっきりしないが
ただ
ぼんやり生きてきたことへの報いなのだろうと合点がいっている

答えを出さないで生きていくと
この世間では上手く生きて行くことはできない
世間はいつでも答えを求めてくるから

世間と懇ろにやった風がなければ
抹殺されることも覚悟しなければならない

ゆえに
世間は私たちの先生であり
生きて行く場所だ

さて
多くの人の心に
詩はどこからもやって来ない
待ち構えている人の心を通過して
打ちひしがれた人の足元にポトンと落ちる
あるいはうらぶれた部屋の隅に一輪の花として差さてれいる

ため息が起こす風でも
言葉の葉は湿り
微かな揺れを伝える

2013年9月6日金曜日

教えてくれた

バスに乗って走っています
走っているバスの中にいます

夕日がバスに差し込んで来ます
バスの窓から夕日の光が入って来て私はそれを見ます

バスには何人かの乗客がいますが
私の他に夕日の光を見ている人はいるのでしょうか

夕日の光は見えていて見えていないことがあります
見えていることの方が少ないと私は思います

そこに昔見た夕日の光が混じり
その眩しい光のなかに
私の好きな人が私の好きな表情と格好でたっています

私は話しかけたいと思いましたが
バスが強烈にガタガタとゆれ
何人かの乗客も不覚にも一緒に飛び跳ねています
そんな状況のせいか
夕日の光のなかにいる私ねか好きな人も
ただ周りが少しでも静かになり
私が声をかけられる時がくるのを待っていてくれています

いや
待っていてくれているというのは
私が想像しただけのことです
このバスには衝撃を吸収する効果的な部品が入っていないようです

ばすは円明園にさしかかりました
三年前の12月に一人でやって来て
凍った池と西洋建築の遺跡を見歩きました

9月初旬の天気は穏やかで涼しく
冬支度をする余裕を与えてくれます
夕日は惜しみなくまだ車内に光をいれてきます
惜しみなくやっていきたいものだ
大きな声でしゃべりなさいと
あの詩人は教えてくれた

2013年9月5日木曜日

それは問題ではありません

まず鉛筆で下書きします
定規をあててまっすぐ書きます
息を止めて書きます
それからなぞって書きましょう

うまくかけましたか
あなたがなぞった
あなたのもの

誰かがお手本にして
書くでしょうか
書かないでしょうか

いまは誰にも分かりません
あなたにもたぶん
分からないでしょう

それは問題ではありません
それは問題ではありません

2013年9月4日水曜日

祭りの思い

祭りが西の方からやってくる
夕日が沈むまちからまちを
笛を吹きながら
渡り歩いているのだ
決まってだれかが太鼓を
たたきはじめる
するちう踊り歌う者たちも現れる
中には愛を交歓し始める者も

露店がたち
人々が群がり始めた頃
祭りはご満悦
瞼の裏に懐かしい子どもの頃の思い出を映し出す
そうして楽しい夜を過ごしていつの間にか眠ると
翌朝は早起きしてもう立ち去ってしまうのだ

祭りが去ったあと
祭りは立ち去ったまちのことを
しばし忘れている
しかしだれかが祭りに思い出話をすれば
祭りはその都度思い出す

悲しいことが何処かに隠れていたことも
その時始めて意識して

2013年9月3日火曜日

ぬるい風が

ぬるい風がふいてきて
ぬるい風が回ってる
ぬるい風情のこの私
ぬるい言葉をはいている

北京にて

後ろでは詩人がインタビューを受けています

2013年9月2日月曜日

主観の代名詞のような

主観の代名詞のような詩がある
そのような詩は
一つの語句としては長すぎるし
中身がないのに重たすぎる

主観の代名詞のように生きたいと
願う私は
世間にいるために
なにが必要であるのかを
知りたいと願うが
知られる訳がない

客観の主語が
攻め入り私を追いやったとき
それでも私は
敵陣に時折顔を出す