2013年8月14日水曜日

ブルーなシャンデリア


暗い海の底に心を沈ませて
息をひそめて生きる意味を問い続けるの
太陽は波に反射して
遥か上空のブルーなシャンデリア

ここには影さえできない暗がりがあり
声をたてることができない静寂がある

人たちは私のことを忘れ
世界の平穏と自分の幸福を祈って
それぞれの道でがんばってるんだろう

捨て去っていいものは
何かあるの?
大切な何かを差し出して
卑怯者に加担している

だがそれも世のため人のため
必要悪というものがあり
だれかが犠牲を払っている
だれかが涙をこぼしてる

暗い海の底に心を沈ませて
息をひそめて生きる意味を問い続けるの
太陽は波に反射して
遥か上空のブルーなシャンデリア

私は声を出さないから
古代の深海魚と話ができる
だまったまま
目的や意味は置き去りにして

ここは花の島 コマーシャル




Flowers of Fukushima  
映像/今垣知沙子

福島県立田村高校合唱部・吹奏楽部 「ここは花の島」

「ここは花の島」作曲・谷川賢作 作詞・マツザキヨシユキ

2013年8月13日火曜日

私は知らなかったのだが



月影の浜に
波が這い上がって
あなたをさらおうと
手をのばした

あなたは
とっさにその湿った手で
なまめかしくにぎり返し
鼓動で合図を送った

波はあなたの中に
入ろうとして
裾を巻き上げ
引力に逆らっていたが
やがて
蒸発を試みた

あなたは
あなたの中に入った波を
自分と区別できずに
潮を吹いて押し出してみようとした

月影の浜に
不良少年がたむろして
仕掛け花火を楽しむように
私を見ていた

私は見られることが恥ずかしくて
逃れようとしたが
なおさら恥ずかしいポーズととってしまうだけだった

あなたは
波の中に私を誘い入れ
波の背中を汗で光らせて
朝を遠ざけた

2013年8月12日月曜日

少女は二つのマリを抱えて

少女は二つのマリを抱えて
立っている
もうほかに何も持つことができないから
期待と疑問のタトゥーシールを
うでとお尻の上部に貼り付けてある

少女は何のために
そこに立っているのか
すでに忘れてしまっているから
声をかけて肩に触れてくる男に
片っ端から訊いてみるが
男たちは不意打ちを食らって
みな逃げだしてゆくので
少女は
時計回りに針が動く
時計とともに
いつまでも立っている
時の経つのも忘れて

2013年8月11日日曜日

へっちゃら


おへそのお池に
たまるよ涙
あふれるまでは
へっちゃらさ

2013年8月10日土曜日


死んだ人や
死なずに苦しんでいる人や
死ねずに絶望している人
痛みや恐怖も振り切れ
うつろにさまよう人
なくなった手足や髪の毛
溶けて固まり
誰かと一体となったように感じられる体
焼けこげた匂い
炎と煙があがっている自分
うめき声と叫び声でできた地響き

その間にできている細い道

死んだ人や
死なずに苦しんでいる人や
死ねずに絶望している人
痛みや恐怖も振り切れ
うつろにさまよう人
なくなった手足や髪の毛
溶けて固まり
誰かと一体となったように感じられる体
焼けこげた匂い
炎と煙があがっている自分
うめき声と叫び声でできた地響き

その道を倒れ込むのをこらえて歩き
神社の階段をにじり上り
回廊に倒れ込む人びとに身を寄せて
力つきた

さっきまでの自分が
私にダブって
私とは何者なのかを
くり返し教えてきた

ありがとう

いまだから
言える

いまだに私は何ものなのか
問いかけ
教えてくれる
自分

2013年8月9日金曜日

最初の原子爆弾


原子爆弾 は
まだ 爆発を 終えていない

最初の 一つが
広島の上空で 爆発を 始めてから
68年が 経とうとしているが
まだ 原子爆弾の その 爆発の
奇妙な形の 傘の下で
広島も 長崎も そして
世界中の あらゆる都市が
破壊され 哀れまれ 復興されていくけれど
本当は まだ 一つ目の 爆発さえ
終わっていない

終わっていないのだから
私たちは
新たな文明を始めたり
産業を栄えさせ
人びとの 幸福を考え
祈ることが 出来ない

爆発が 始まった 合図の鐘が
鳴っている
その響きが 木霊して
死者を つなぎ止めている
死者と一緒に
私たちもまた つなぎ止められている

キノコ雲は 夏の日差しに そびえ
広がってゆく

広がりませんように
もとに もどりますように

誰が叫んでいるのかは 分からない
私たちは 冷静に その声を聞いている
余裕はないから

岡崎武志さんが書評(サンデー毎日・2013・8)で取り上げてくださいました