暗い海の底に心を沈ませて
息をひそめて生きる意味を問い続けるの
太陽は波に反射して
遥か上空のブルーなシャンデリア
ここには影さえできない暗がりがあり
声をたてることができない静寂がある
人たちは私のことを忘れ
世界の平穏と自分の幸福を祈って
それぞれの道でがんばってるんだろう
捨て去っていいものは
何かあるの?
大切な何かを差し出して
卑怯者に加担している
だがそれも世のため人のため
必要悪というものがあり
だれかが犠牲を払っている
だれかが涙をこぼしてる
暗い海の底に心を沈ませて
息をひそめて生きる意味を問い続けるの
太陽は波に反射して
遥か上空のブルーなシャンデリア
私は声を出さないから
古代の深海魚と話ができる
だまったまま
目的や意味は置き去りにして
Flowers of Fukushima
映像/今垣知沙子
月影の浜に
波が這い上がって
あなたをさらおうと
手をのばした
あなたは
とっさにその湿った手で
なまめかしくにぎり返し
鼓動で合図を送った
波はあなたの中に
入ろうとして
裾を巻き上げ
引力に逆らっていたが
やがて
蒸発を試みた
あなたは
あなたの中に入った波を
自分と区別できずに
潮を吹いて押し出してみようとした
月影の浜に
不良少年がたむろして
仕掛け花火を楽しむように
私を見ていた
私は見られることが恥ずかしくて
逃れようとしたが
なおさら恥ずかしいポーズととってしまうだけだった
あなたは
波の中に私を誘い入れ
波の背中を汗で光らせて
朝を遠ざけた
少女は二つのマリを抱えて
立っている
もうほかに何も持つことができないから
期待と疑問のタトゥーシールを
うでとお尻の上部に貼り付けてある
少女は何のために
そこに立っているのか
すでに忘れてしまっているから
声をかけて肩に触れてくる男に
片っ端から訊いてみるが
男たちは不意打ちを食らって
みな逃げだしてゆくので
少女は
時計回りに針が動く
時計とともに
いつまでも立っている
時の経つのも忘れて
おへそのお池に
たまるよ涙
あふれるまでは
へっちゃらさ
死んだ人や
死なずに苦しんでいる人や
死ねずに絶望している人
痛みや恐怖も振り切れ
うつろにさまよう人
なくなった手足や髪の毛
溶けて固まり
誰かと一体となったように感じられる体
焼けこげた匂い
炎と煙があがっている自分
うめき声と叫び声でできた地響き
その間にできている細い道
死んだ人や
死なずに苦しんでいる人や
死ねずに絶望している人
痛みや恐怖も振り切れ
うつろにさまよう人
なくなった手足や髪の毛
溶けて固まり
誰かと一体となったように感じられる体
焼けこげた匂い
炎と煙があがっている自分
うめき声と叫び声でできた地響き
その道を倒れ込むのをこらえて歩き
神社の階段をにじり上り
回廊に倒れ込む人びとに身を寄せて
力つきた
さっきまでの自分が
私にダブって
私とは何者なのかを
くり返し教えてきた
ありがとう
私
いまだから
言える
いまだに私は何ものなのか
問いかけ
教えてくれる
自分
原子爆弾 は
まだ 爆発を 終えていない
最初の 一つが
広島の上空で 爆発を 始めてから
68年が 経とうとしているが
まだ 原子爆弾の その 爆発の
奇妙な形の 傘の下で
広島も 長崎も そして
世界中の あらゆる都市が
破壊され 哀れまれ 復興されていくけれど
本当は まだ 一つ目の 爆発さえ
終わっていない
終わっていないのだから
私たちは
新たな文明を始めたり
産業を栄えさせ
人びとの 幸福を考え
祈ることが 出来ない
爆発が 始まった 合図の鐘が
鳴っている
その響きが 木霊して
死者を つなぎ止めている
死者と一緒に
私たちもまた つなぎ止められている
キノコ雲は 夏の日差しに そびえ
広がってゆく
広がりませんように
もとに もどりますように
誰が叫んでいるのかは 分からない
私たちは 冷静に その声を聞いている
余裕はないから