2013年7月3日水曜日

空っぽの器

全部失くなってしまった
そして
空っぽの器が現れた

空っぽの器の中の空っぽを
失ったら
次は何が現れるだろう

怖いもの?
それとも
いままでに見たこともない
素晴しい〈何か〉?

2013年7月2日火曜日

小さな鬼


壁にひと月遅れのカレンダー

小さなひとつのことに
頭を占領されると
他のことは後回しになる

都会の道を運転している時のように
思考は進む

目的地に到着したら
もうそこは過去の目的地

車から降りて
道を歩く

その映像を
逆回しして遊んでいるのは
古い家に置き去りにした小さな鬼

2013年7月1日月曜日

センチメンタルな絵

1

生っ白い皮膚のうえ に
白く焼き付いた傷跡

体は揺れて
撓(しな)ってもいるが
思いは
杭が打たれて
揺れられないまま
熟れてゆくのを待つのか

2013年6月30日日曜日

人命救助が趣味のハリー

人命救助が趣味のハリー
難破船が漂流する島で
助けを求める人 待ち構えてる
白い庭に緑の芝生がハリーの自慢
相棒は黒人
いまバンブーの箱を海から拾い上げ
芝生の上に持ってきた

ふたを開けると
さあたいへん!
ハリネズミが6匹飛び出した

刺さないでおくれ
噛まないでおくれ

あたふた逃げ惑うふたり
追いかけるハリネズミ
だれも助けてくれません
誰もかばってくれません

ハリネズミに刺されたハリーと黒人
バンブーの箱はもうこりごり
二度と箱を開けませんよ
ハリネズミなんて助けません
と つぶやいて
おんおんないた

2013年6月29日土曜日

空を突く女


体の線に自信がなければ着られないような服をきて
一組の男女がつり革に掴まって揺られている
なんの変哲もないベーシックなパンツとシャツと
それにおそらくインナーとを
その完璧な体型に貼付けて立っている

女も男も
ついいましがた
雑誌のファッションページから飛び出してきたようで
かっこいいこと この上ない
洗練の極みだ
そして急に電車が大きく揺れるたびに
座っている私の眼の高さに女は股間を突き出し
私の視界を揉む

こうして女の股間を鼻先に突き出されることなど
いままでどれほどあったことか

女と男は
電車遊びをしているのだろう

降りていった私を残して
遠ざかりながら揺れに身を任せ
何度もおのおのの股間を
突き出しては笑いお喋りしている

2013年6月28日金曜日

赤い魚

きみはいつ
自分は特別だ
と 気づいたのか

青い海原を跳んだとき
きみの体は逆光に縁取られ
視界の隅に自らの赤を見た
そのとき
きみは
自分が特別だ
と 気づいた

だが
また海に落ちて
群れをなす仲間たちと
一緒に泳ぐしかなかった

きみは特別な
赤い魚
いままでそうと知らずに
青い魚と群れて泳ぐ
特別な赤い魚

誰もがきみを
特別だと思う
まだそれに戸惑う
何もできない赤い魚



2013年6月27日木曜日

あっちのお山と

あっちのお山と
こっちのお山
どっちのお山がすきですか?

あっちのお家と
こっちのお家
どっちのお庭が広いです?

あっちの人と
こっちの人は
どっちが役にたつかしら?

あっちの仕事
こっちの仕事
どっちが楽ができますか?

あっちの祭り
こっちの祭り
どっちに神様いるかしら?

あっちの理屈
こっちの理屈
どっちも屁理屈屁の河童

2013年6月26日水曜日

涙は

涙とさよならして
泣くのをやめたいのに

涙とさよならしようと思っただけで
なおさら泣けてきた

悲しいことが起こる前に
涙と出会いたくなくて
なにも気にしないように
しようとしたけれど

悲しいことは
もう私をどっぷりと覆っていて
涙はすでにあふれ始めていた

それでは私を逃がそうと
考えてはみたけれど
悲しいことも涙も
私から離れることがない

だから余計に泣きたくなって
それを察した涙は
もう勢いよくあふれ
快晴の海へと向かおうとしている




2013年6月25日火曜日

花束


花束を作ります
最初は自分のために
いつの間にかふたりのために
そして最後はあのひとのために

花束を渡しに行きます
花束を持って
会いたい気持ちを持って
そして私ごと渡してしまいます

あのひとは
幸せそうです

2013年6月24日月曜日

生きていく


幾人かの気心の知れた仲間と
遊びながら
悩みを打ち明けながら
お互いを理解し合っていると喜びながら
助け合って
声を掛け合って
この地に根を下ろして
贅沢はできないけれど
貧しすぎるということもなく
悪いことはせず正直に
得意なことをがんばって
うまい話は疑ってかかり
下手なことはしないようにして
家族を守り
動物を飼い
近所の人と仲良くし
一生懸命仕事して
……

生きていく
これが生きていくということ