2012年9月7日金曜日

告知■『詩の電車』vol.1


■『詩の電車』vol.1

谷川俊太郎(詩人)×有本ゆみこ(刺繍作家)「七等星」

  期間

2012929日(土)〜1028日(日)

  叡山電車の通常運行スケジュールでご乗車いただけます。929日のみ、1830分から、オープニングイベントのため貸切電車となります。

  「七等星」について 有本ゆみこ

「普段夜空に瞬く星は一番明るい、一等星から六等星まで、それ以上は光が弱くて目に見えません。でも、みえないけれど、そこに星はあるのだと思います。きっと、もっと。星だけじゃなくって、日々のあわただしい生活の中で感じる違和感とか、小さな本音、みえないけれどあるような、そんな《七等星》な想いがとても大切な、ほんとうのこと だったりします。谷川俊太郎さんはそんなささいな出来事から生まれた小さな魂をひとつひとつのうつくしい言葉の中に宿らせていると、刺繍をしながら感じました。」

 about

刺繍作家・有本ゆみこが、谷川俊太郎さんの書き下ろしの詩と、「七等星」をキーワードにセレクトした谷川俊太郎さんの詩を、一針一針刺繍し、叡山電車に飾り付けます。

  オープニングイベント

2012929日(土)1830分〜2030

「宇宙の入口、金星(鞍馬天狗に会いたい)ツアー」

ツアー料金:1500円(叡山電車の往復乗車賃込み) 乗車駅:出町柳駅

内容:銀河鉄道となった叡山電車。詩の力でワームホールより天狗に会いに行きます。

  有本ゆみこ率いる「アラスカン」刺繍ライブ

  「詩の電車」のために制作した「星の組曲」(朗読 谷川俊太郎+音楽 谷川賢作) の車内放送。

  谷川俊太郎の短編映像作品を上映


2012年9月6日木曜日

森は




もう森は消えようとしていて

待って!

私は声を掛けたけれど
森に吸い込まれて
木霊は返ってこなかった





もう森は消え去ってしまい

何処?

私は声を掛けたけれど
今度は自分がいなくなり
声だけが木霊して彷徨っていた





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2012年9月5日水曜日

哀しい心を持っているあなたと

哀しい心を持っているあなたと抱き合って
一晩中泣いていたい
涙で湿り過ぎないように
タオルやティッシュを沢山傍に置いて

哀しい心を持っているあなたと抱き合って
声を出さないで語り合いたい
お互いの悲しみが無用でないことを
別の場所で生まれた悲しみ同士でも
ハーモニーが奏でられるということを

哀しい心を持っているあなたを
大事にしていたい
湿り気を乾かすお日様に感謝するでもなく
恨むでも厭うでもなく
ただ微妙に受け入れて
その強い光の輪っかの一部を乱反射させて
明かりを取りながら

うなだれたまま
ベッドに倒れこんだまま
隣り合って
哀しみを見つめて手のひらで撫でたい
あなたの頭の形のような
哀しみの頭を
私の後悔のような掌で

2012年9月4日火曜日

私が生きていく理由

私が生きている理由がどこにありますか

私が生きていく理由がどこかにありますか

2012年9月3日月曜日

もうそのガムはここにはないけれど

ネコさんも「お手上げだ」って言ってる
逆さまになってふたり並んで
のびている

状況は芳しくなく
星空も瞬き心配そう
雨雲が横槍もいれてくる

ネオンの滑り台は
最近LEDになり
感電することもなくなったが
頭に来ても
切れられない

10万年に0.1秒という精度で
確かな時を告げるという
電波時計はきのうからもう2時間もずれている
いったいどれだけの時が経ぎたというのか

Windowsは相変わらず
やっとこさ立ち上がるときに看板を出して
無策を印象づけてくる
もう勘弁してよ

作っては壊し
心配して
捨てまくり
そのせいで
また作り
作るために
大切な物を壊す

そういえば
ガンジーさんは
なまえがすごくいい
スージーさんも
なまえがいい

ネコさんは
いなくなった
あくびをひとつおいて

そのうえに
溜息を漏らしてみる
ラベンダーの香りは
ガムの中に入っていた
もうそのガムは
ここにはないけれど

2012年9月2日日曜日

ファストフードのレストラン

私を知っている者は誰もいない
明るい日差しが差し込む
異国のファストフード・レストランの2階

買ったものを食べ終えて
周囲を見回している私
おいしいゴハンだったし
煩わしいことはとりあえず放置してきた
ここまで
追いかけられることはない
だから
心を軽くして
方ぼう好きに漂わせることができる

・・・なんて楽ちんなんだ・・・

荷物は椅子の上に投げ出し
スーツはとっくに日本の部屋の押入れに仕舞いこんだ
明日の予定はまだ決めていない
友だちはみんないい人ばかりだ
悪い人は友だちと呼ばないことにして
放ったらかしにするから

私は
安くて美味しい物を
おなかをすかせてから食べて
浄水器で濾した水でお茶を作る
それだけだ

やらなければならないことを
やりたい時にやり
できた後から
注文を受ける
そうすれば
思う存分
納得の行くものを作ることができる

だれも
作らなくてはならないと
私に言ってこないから
私は好きな場所まで歩いて行き
自分に言われるまで作り始めない

ファストフード・レストランの2階は
広々していて
世界をすっぽり納めてしまう
ひょっとしたら宇宙だってかなわないほど広い
その場所の端っこにに私は腰掛けて
ゆっくり息をしている
多分生きているから
多分生きて行けるから

2012年9月1日土曜日

私というあなた

言葉を教わると
たちまち言葉に閉じ込められる
瓶詰めのジャムみたいに
ラベルをはられて
内容量がきまってしまう

たとえば
いわし雲があったとしよう
いわし雲という言葉を覚えると
いわし雲は缶詰の中に入って(缶のほうがいいだろう?)
「いわし雲」というラベルが貼られる
すると人は「いわし雲」を
ほかの雲(入道雲やうろこ雲など)や
気象の状態や
ましてや魚(鯖やマグロ)と間違わずにすむ

だが
言葉に捕らえられると
捕らえられたものたちはたちまち自由を失い
場合によっては意味がいい加減な詩なんていうものとは
おさらばしなくてはならない
孤立無縁に閉じ込められ佇む姿はなんと憐れなのだろう

私は
去年
中国に留学して
英語で 中国語を習った
どちらもよく知らない言語だ

私の名前は
今まで私が知っていた名前と
似ても似つかぬものになった
ずっと
マツザキヨシユキ
と呼ばれてきたが
ソンチーイーシン
となった

私の自由は
果たして広がった!
それでも
名前の中に閉じ込められて
私は何をしようか

私というあなたは
何をしますか?
という質問さえ
言葉を頼りにするなんて

2012年8月31日金曜日

湿った風

何十年も掛かって築いてきたものが
一瞬にして失われた
きれいサッパリなくなって
おまけにシミが遺っていた

失われたものは
海の彼方に溶け去ったのか
この大きな喪失は
何と釣り合っているのか

青い空には
街をすっぽり覆う巨きな夏の雲
まさかあの雲が
私の大事なものを持ち去り隠しているのか

遠くから雷鳴が聞こえてくる
やがて湿った風が吹き始めるだろう
風はあなたの瞳を湿らせ
私の舌に塩辛い涙の味を広げるだろう

2012年8月30日木曜日

水車の音に合わせて

古い小屋の向こうには小川があって
雪解けの水が流れている
花びらや木の葉や
何かの欠けらも流れてくる

古い小屋の向こうには
行くことができない

あれは今はもうない家だから
住んでいる人も もういない

それでも 時々
いろりに明明と火がともり
屋根から煙が立ちのぼる

あの家のバカ息子は
大事なものを全部なくしてしまった
自分のものだけでは飽きたらず
人様のものまでも

それだから
あの古い小屋は取り壊され
そこに新しい家が建った
新しい家には
どこからか新しい人がやってきて
住み着いた

だが新しい家から
煙が立ちのぼることはない
新しい家は電気とガスで動くから

古い小屋の向こうの小川では水車が回っていた
軋みながら
水の流れを体に受けて
ぎーぎーと楽しげに会話していた

古い小屋の向こうには畑と山もあって
百舌鳥が梢にとまっていた
水車の音に合わせて
ぎーぎー鳴いていた
日が暮れるまで鳴いていた

2012年8月29日水曜日

部屋へ帰る

西友に87円のお茶を買いに行ったら隣りに78円のお茶が並べられていた。それを見て瞬時に78円のお茶を買うことにしようと思ったが、飲みたい気持ちにならなかったのでやはり87円のお茶にしようと思い、むんずと手に取ろうとしたその時、何故か入り口に2リットルの南アルプスの天然水が79円で売っているイメージが去来し、もし2リットルの天然水を買い水出しのパックで作ったらどれほどお得なのか、自分の思考を止めることはできなかった。結局何も買わずに部屋へと帰った。