おとうさん
ぞうさんの
こども
おいしい
くさを
いっしょにたべる
やわらかいのは
こっちだよ
ぼくは いいんだ
こっちがすきなの
ぞうさんの
おとうさん
ぞうさんの
こども
おはなししながら
ごはんをたべる
おはなを
じょうずにつかってね
こっちのくさも
おいしいよ
ぼくはこっちを
たべてるの
おいしい
くさを
いつまでたべる?
たべたら
おひるね
するのかな
やわらかいのは
こっちだよ
ぼくは いいんだ
こっちがすきなの
ぞうさんの
おとうさん
ぞうさんの
こども
おはなししながら
ごはんをたべる
おはなを
じょうずにつかってね
こっちのくさも
おいしいよ
ぼくはこっちを
たべてるの
おいしい
くさを
いつまでたべる?
たべたら
おひるね
するのかな
大事なものなら
すでに持っているはずだと
手放すことはなかったと
と そこまで思って
手放さないでも
向こうから無理矢理離れていったことはあった
と思い出した
だが
大事なものを
自分から手放したことはないはず
と いうことは
今も持っているはず
だが
それは何か
分かった
大事なものが
なんだか分からない自分が
きっと 一番大事なもの
だが
あなたはしらけた様子
ああ そうだ 大事なものは
しらけて
機嫌の悪くなった
しらけていないあなた
そして
あなたが愛する人
あなたが愛する人が
愛しているあなた
そこに
私は居ないけれどね
それが
残念
寒さを振り切るように
バス停からの道を勢いよく歩いて
帰ってきたけれど
あなたはまだ外のどこかに立っている
私のことを
待っているわけではないけれど
こたつに足を投げ入れてみたり
お風呂のお湯をかき寄せてみたり
パジャマのボタンを全部留めたりしているけれど
私の体が求めているのは
暖かさではない
寒さは
あれから黙ったまま
外に立っている
いや
立っているだけではなく
思い出の場所や
知らない場所を歩き回っている
歩き回っては
誰かの襟からその手を
暖かい背中や胸へ進入させている
私は考えたくても考えられない
正しい行いと誤ちが
天秤の上で釣り合って
どちらがどちらでもよくなってしまう
その天秤さえ
天秤の上に乗っている
行ったり来たりしていて
最初にどっちにいたのか分からなくなった
カウントダウンしているのか
それとも
経過時間を計っているのか
それとも
それは同じ意味なのか
ミカンを剥きながら
柿の種を食べる
あなたのことを思いながら
私の未来予想を繰り返しながら
寒さは私の味方?
やはり
あなたから逃れようとしているけれど
あなたのことが
気になっているけれど
好きなわけではない
−−−愛しているといえなくなった日
世界もまた
あなたや私を
生かそうとしている
そのような
誰も語ろうとしなくなってしまった
古びた合意が
夜の町にあふれて
ひっそりと佇んでいる
あなたは時どき
その傍らに立って
手招きをする
そこに
引き寄せられるのは
見慣れた普段着の言葉たちだ
これから
詩に仕立てられるのだ
クリスマスが近づいているのに
あなたはいつもと同じ様子だ
むしろ
次の季節の中に入っていこうとしている
あなたは
あなたが作った
クリスマスのことを
思い出す
ワインが招いた
酔いが静かに
迎えにくきている
ちょっと待って!
あなたは
外に向い
声をあげて告げた
あなたの
玄関で待っていたのは
月が落とした影
それは美しい
客人だった
ーーー
谷川俊太郎さんの誕生日に