2014年1月21日火曜日

詩人のコトバ

下の方で火がチロチロと燃えて
煤(すす)の匂いが立ち込めている
あの大火がまだ続いているのだ  ✴︎

消し止められたものだと思っていた
もう忘れ去られたのだと高を括っていた
だがあの人の哀しい願いごとのように
その火は
いつまでも消え去ることはなかった

あの人は白黒写真のなかで笑っている
時代が繊細な色模様に彩られ
ノイズさえ音楽になったとき
あの人の叫び声は
人々が気づかぬ時に蒼空の彼方から
空に吊るされた高い高いブランコのように
やってきてはまた彼方目指して消えていった

それでも
時代の漆喰の壁に打ち付けられた〈?〉の形のねじ釘は
夕日にただあやしく光って
コトバでないものを語りかけてくる

その問いに私は頷いて
やはり
答えのコトバをもつことはなかった

——吉野弘さんを追悼して



✴︎酒田大火(さかた たいか)。1976年(昭和51年)10月29日に、吉野弘さんの郷里である山形県酒田市で発生した。

2014年1月20日月曜日

満月の次は?

君が向かう方向に
未来とやらが待ち構えているのか

待ち構えているものだから
すでに過去だといま君が言った

済んだことは全て過去にながれさるのか
いま思い出した過去は未来のビジョンだが

明日考える今日と3年後に考える昨日は
いまの私からどちらが近いのか

アラームのスイッチをいれ
予定を確認して
夢を見に螺旋階段を満月の方向へ上ってゆく

2014年1月19日日曜日

冷たい風にのせて

冷たい風にのせて
石の声を伝えよう
水の声でささやこう

冬の日差しを浴びながら
土の香りを懐かしもう
木々の戯れを見守ろう

私はこの地が好きだ
あなたと同じくらい

鉄瓶で湯を沸かそう
ナイフで鉛筆を削ろう
生きた証などなにも必要ない
ただ
いまを精一杯生きて
あなたを抱きしめよう

2014年1月18日土曜日

振り向いて、、、

声? 鳴き声?
が、したので、振り向いてみたら
田んぼの脇の 夜の道
暗がりから 何かの気配が
こっちを見てる

獣だろうか 人? 宇宙人?
森の黒い影の上に
たなびく 雲の上に
三日月

いつもより大きい

いつもより
時間が早く流れている

もう一時間も
ここで 振り向いて
様子をうかがいながら
つい 物思いに耽る私

きつねでございます
油揚げ

本当に 好きなんだ



2011年10月、北京市西部で撮影


2014年1月17日金曜日

曇り空の彼方に

わざと気づかないように
奥の方に仕舞ってあるもの
たまに目が合うと
コトバを失う

こわいかさえ分からないけど
なんだかヤバい気がして
触れずに来た
いままで ずっと

だけど いま取り出して
手にとって向き合わなければ
負けた気持ちで
生きていくしかない

そんなのいやだからと
自分に言い聞かせて
思いきって
蓋を開けた

わざと気づかないように
奥の方に仕舞ってあったもの
私はその中に引きずり込まれて
なにかが碎け散った

その破裂した音だけが
木霊して 羽音のように
バタバタと耳をかすめて
曇り空の彼方に飛び立っていく

2014年1月16日木曜日

どうしようもない子 〜少女編〜

平らで硬かった胸板に
柔らかなふくらみが育って
波打つようになった

制服を着替えるとき
空気がひりっとして
思わず 手のひらで押さえると
指のあいだから
はみ出して
押さえつけないで
痛い! と主張してくる

瞳は蒼空をうつして緑に萌え
流れる雲を追って灰色の哀しみを湛える

12歳の卒業式から
何日が経ったのか
指を折って数え
そしてその指を唇にもっていった

指が唇に触れているのだが
この感覚は
唇から来るものなのか
指から来るものなのか
それとも
どこか遠くからやって来たのか
分からずに途方に暮れる

私の唇は
小さなアンテナ
指はセンサー

私は大きくため息をついて
明るくない 未来のことも
考えていた

2014年1月15日水曜日

まっすぐな道を

足が痛いから
もう旅行なんかいかないと
不機嫌そうに言う母

家にいたほうが安心だし
行きたくないという

つれていってよ
また いつか
楽しい場所へ
ちょっと恥ずかしいけど

そこで
新しい 楽しい想い出を作って
土産に持ってかえろう

レンタカーを借りて
まっすぐな道を
どこまでも 走って

2014年1月14日火曜日

井の中のドングリ

いいもの持ってるね
いつどこでそろえたの?

あなたの周りには
ボクがほしいものばかり
そのまん中にあなたがいるのに
きょうも足早に立ち去ろうとする

いい香りがしている
サラダよりも新鮮だね

風下に立っていると
うっとり眼を閉じたくなる
引力は向かってくる
光を集めてくちびるが香る

あなたはそっぽを向いているけど
ピンク色
ボクは首ったけ
へのへのもへじ
井の中のドングリ

2014年1月13日月曜日

最初の一粒を 見つけたら

最初の一粒を
見つけたら
そうしたら
次から次へと
雪の粒が空から舞い降りてきた
いつの間にか
街じゅうが
雪の襲来に会って
黙らされていく

だれかが声を上げても
空の途中で
凍えて落ちていってしまう

今夜の雪は容赦ない
過去と現在(いま)をつなげようとしているのは
空がひとのコトバに飽き飽きしたから
そんなに私たちは
無駄口をきいてしまった

雪を見張るのを飽きてしまったあとも
雪は降り続いているだろう

海の中でヒトデが時計の代わりに回転して
時を計っているが
それは空と申し合わせをした訳ではあるまい

最初の一粒を
見つけてから
私は
いつかも こんなことがあったと気づきながら
口をつぐんで
コトバにならないように気を遣っていた

あまりにも
身も蓋もないではないか
もしコトバにしてしまったら
私はこの世の牢獄に閉じ込められて
生涯出ることができないかも知れないのだから

2014年1月12日日曜日

なんだかんだが たのしくて

なんだかんだが    たのしくて
きみといっしょが    うれしくて
おひさま    ポカポカありがとう
きみも    とにかくありがとう


絵 一之瀬仁美