2012年6月17日日曜日

新しいポスト

錆びたポストに
真新しい手紙が届いた日に
私は家を出ていった

出ていって
帰ってくることはなかった

錆びたポストを
道路に突き出して
家族は家で生活していた

そして
妹も家を出ていった

父母が残り
錆びたポストを掲げて
この家を守っていた

家は
私が生き延びるために
融資の担保にされ
父が死に
やがて母は追い立てられて
この家を出た

私は母を新しい部屋に連れて行った
母の部屋は私の新しい帰省地になった

部屋からは富士山が見えるという
エレベーターで出会う人々と
挨拶を交わすという

母には守るべき家がなくなった
掲げるべきポストもない
ただ
気楽さを入れる空白ができた
空白はさびしいが
その空白は
新しいポストになった

新しいポストは
錆びたポストの
親戚なのか

そこに
私は新しい手紙は届くが
もう出ていく人はいない

2012年6月16日土曜日

就活生Nさんの場合

学校を卒業したら
どこかの会社に入るつもり
就活のためにスーツを買い
学生というより
これからは就活生やる

想定問答を何度も練習し
自分の長所とメリットを
うまく自分から語らなければならない
短所をどう克服しているかさえも
無理やりにでも
答えを用意して行かなければならない

迷い苦しんでいる会社の人に
癒しを与え
自信を取り戻してもらうのだ
そうしたらきっと合格する

ストレスがたまったら居酒屋で愚痴るんだ
とりあえずビールなんて余裕はないから
好きなお酒を最初から注文して
楽しかったころを懐かしんで
乾いた涙をぬるい風に晒しながら

《ホンネのつづきはミクシィへ》

2012年6月15日金曜日

大きくなるテレビ

テレビは窓とは違う


テレビはギロチンと同じ
時間がくると
さようなら

長いものに
巻かれもするが
短くカットするのが仕事

正義の味方のフリをして
いつの間にか成りきって
ギロチン
人殺し

お茶の間に届ける
お茶の間の団欒を
消し去って

誰のために何をしているのか
分からなくなっても
省電力を錦の御旗に
大きくなっていく

2012年6月14日木曜日

召しませ詩

しめ縄を締めてある岩の清水で
飯を炊き
酢飯とし
鰯を乗せよと

皺のある和紙につつまれた箸で
端まで残さずいただくのだと

橋のたもとに
幸せがやってくる
きっと幸せがやってくると
言わしめる何か
いわし雲を見上げて





参考作品
詩 未 来 創 作: いかすすいか

2012年6月13日水曜日

幸せの種

除染され新しく敷かれた芝生の上に
夕方になって霧雨が降る
その庭をランプが照らし
あなたと私が歩いてゆく

お皿ごとに出される銀のカトラリーで
植物に囲まれながら食事をすませたあと
薄い花びら色の車に乗って
渓流沿いのこの部屋まできた

車窓の風景は
緑の中に明かりを灯していた
あのころ
私は反抗期だった
あなたは幸せでしたか
横顔が幸せだよ と答えだが
あのころのあなたの日々の中に
あなたは不幸せを探しに行ってしまった

それは
幸せの種だったの?
祈りは通じたね


2012年6月12日火曜日

石畳の道

石畳の道
歩きにくい石畳の道
走り出したいけれど
ここは石畳の道

石畳の道は
古くからあるこの街の
道から路へと通じる途

走る人もあったが
容易に足をくじいてしまう
意地悪な道

未知へと続いているのか
知らんぷりで
手を取り合って歩くと
広場の外れの塔のところで
途切れてしまう道

石畳の道は
足音を響かせて
なかなか眠りにつかない道
何も語らずに
聞き耳をたてている
好奇心あふれる道

石畳の道は
いつまでもここにあるのか
私が戻るときに迎えてくれる
優しい道

2012年6月11日月曜日

僕は詩をやめるかもしれません

僕は詩をやめるかもしれません
いつも悩んでいます
または基本単語600語だけで書くとか

屋久島に初めて一人で行ったときに
島の海岸をぐるっと巡る道をレンタカーで走りながら
僕はその時も詩をやめようかと考えていました

詩は何故かいつも僕のそばに居ましたが
僕は詩がそばに居るだけで満足でした
気が向いたらすぐに詩を味わうことができたからです

何処かの町の食堂でポカンとして頼んだ定食を待っていた時
壁の棚に設置された古びたテレビから
いきなり詩の朗読が聴こえてきて 僕は
自分が知っているその詩がこうしてテレビで読まれることが
とても嫌でした

詩は皆のもの とよくいわれますが
僕は自分だけで楽しみたかったのです
しかし詩を楽しんだあと その詩の良さを
なるべくたくさんの人に知ってもらいたいと願いました
そして僕は 自分が書いた詩も合わせて知って欲しいと
願いました

自分の好きなものを
他人が紹介するのを受け入れるには
高いハードルがあるのだと知りました

会社で働いている時
僕は詩を仕事にしたいと思っていました
誰もがそうして競い合えば楽しいと思い
詩を無理やり仕事の場に挿入しました

詩は自由で
変幻自在 神出鬼没
しかも食べ物のように味わってもなくなりません
永遠に存在しつづけるかのようです
僕は食うに困っても
詩があることで命は死なないのだと勘違いさえしました



2012年6月10日日曜日

永遠につづいていくキスだった


掛け算の九九ができなくてもひとつひとつかぞえることができる
漢字の読み書きができなくても
挨拶の言葉をはっきり言うことができる

あなたは
あなたの前にいる人の気持ちを受け止めると
いつもお祈りをする
このひとの夢がかないますように と

余りお喋りは上手じゃなくても
役立たずの言い訳に時を費やすこともない

天使がやってきたとき
あなたはうれしそうにキスをした
それは
とても自然で
永遠につづいていく
キスだった

2012年6月9日土曜日

やっかいなあなた

悔しさは薬になる
あなたは夕日に向かって諦めた顔をしている
いまは挑まないのだろう

苦い果実を齧って
何かを企もうとしているが
気づいていない

自分のことなのに
冷たい視線で見つめたきり
突き放して
足の指で弄ぶだけ

2012年6月8日金曜日

何も知らずに死んでゆけ

食べ物はある
捨てるほどたくさん
だが
お前に渡すことはできない
お前は黙って死んでゆけ

この食べ物には
微量の毒が入っている可能性があるから



救助隊もある
彼らを雇うためのカネもある
だが
お前を助けに行くことは出来ない
お前は黙って死んでゆけ

お前の命など
見知らぬ名前ほどの価値しかないのだから



情報はある
みんなのカネで手に入れた情報だ
だが
お前に渡すことはできない
お前は知らずに死んでゆけ

お前はすぐに
パニックを起こすから



私たちに
それは任せておけ

そして 何も知らずに
死んでゆけ

もしうまくいけば
何も知らずに
生きてゆけ