何食わぬ顔をして
誰かと話を続けている
本当のことを教えてくれて
ありがとう
私は何も持っていないけれど
あなたの荷物を持つことはできる
授業が終わって
急いで塾に来た
鈴木さんはまだ来ていない
蛍光灯がまぶしい
鈴木さんは
ほかにいないような
清楚で色気の在る人だ
白いブラウスが蛍光灯の光で
輝く
うっすらと肌が透けて見える
鈴木さんの後ろに座るとき
心は膨張して
ほとんど鈴木さんに吸い取られる
授業の先生の声がたまに遠のき
森の中で
花の香りを嗅ぎ
小雨に打たれる
おしゃべりするみんなの声は
風の音
葉っぱがざわめき
空に雲が流れる
さようなら
鈴木さん
なにもいわないまま
あなたとは
ずっと会わなくなった
いまもどこかにいるのだろうか
それとも
幻のように
消えてしまったのか
なまけもので
おっちょこちょい
ねぼすけで
くいしんぼう
こわがりで
ずるがしこい
おひとよしで
うたぐりぶかい
くわずぎらいの
ひゃっかんでぶ
なきむしけむし
ひとまねばかり
よくばりのごうじょっぱり
がんこでのんき
どこかにくめない
あいつは
きのう
しんじゃった
なにもかもうまいくなんていうことはないのに、
なにもかもうまくいけばいいなとおもう。
なにもかもうまくいかないとおもっているひとは
なにもかもうまくいくことより
ほんとうはなにもかもうまくいかないことをのぞんでいるから
なにもかもうまくいかないことにまんぞくしている
というのは
わたしのしゅかんだが
わざわざそういうのは
ほんとうはきゃっかんてきじじつだとおもっているからであり
ちせいあるわたくしのそんざいをこうていしたいためで
なにもかもうまくいかないことにまんぞくしているひとと
たいさない
そのひとはわたしであり
わたしはそのひとである
なにもかもうまくいくひとと
なにもかもうまくいかないひとは
そうじけいでありいっしょである
なにもかもうまくいったときに
なにもかもをうしない
なにもかもうまくいかなかったときに
なにもかもをてにする
なにもかもはすべてであり
すべてであるものは
無である
風が吹くと
身を縮こめなければ
寒さを追いやれない
愛しているといえない自分は
つぼみを閉じているようだと思う
音楽を聞かせても映画を見せても
わずかに視線を動かすだけだ
愛する人は
目の前にはいない
愛する人は
気軽にメールしてくるけれど
ちっともうれしくなんかない
私は
愛していると いつか
言いたいんだ
愛しくれないあの人に
言いたいんだ
教科書に載っていた
金魚が
逃げ出してしまったらしい
でも
大丈夫
僕は余裕で笑って見せた
金魚はかばんのなかから逃げられない
部屋に戻ったら
乾かして
また
本の一ページに
貼り付けよう
なかったことのように
せっかく逃げた
金魚には悪いけど
どこに行くのかはっきりしないけれど
もう 思うままに
走り出していた
そんなに速く走っている訳ではないが
心は滑るように先走った
人が大勢
反対側から歩いてきたので
流れに逆らいながら
走っていった
どこまでも走っていった
息を切らしても
止まることはなかった
やがて
月がぼんやりと僕を見下ろし
黄色い葉っぱは
ますます黄色くなっていった
頭に
葉っぱが二枚落ちてきて
僕ははっとした
葉っぱに頭を触られたのは
いつ以来だろう
思い出すことができない
僕があのひとの頭の上に
落ちて
触ったときの感触も