2011年2月10日木曜日

美しい背景

絵が飾られた壁
夜には照明が作り出す影さえ
光源となっている
きみの背景はいつだって美しい
例えばダウンタウンの雑踏でも
きみとの境界線のエッジがくっきりと立ち上がって輝き
背景は柔らかく後ずさりして協和し
雑多なディティールを和ませる

きみのからだは光を弾いて
瞳のグレーを吸収する
脛の直線はシーツの上で燃え残る
白い灰で焔を隠す役割を果たして


白い壁に
窓からの光が反射し
きみの顔をレフ板のように明るくし
新緑の世界が宿る
きみは手のひらの上でオブジェをもてあそんで
僕に見せる

重い扉の外の世界は
きみが出現すると一瞬のうちに
背景と化す

2011年2月9日水曜日

真面目に生きてきて

楽しむことの罪悪から逃げて
真面目に苦労してきたよ
本当は怖がりなだけ
楽しいことはたくさんあったから

という
遺書を残した人がいた
という書き出しの物語りを放り出して
ぬるい風が強く吹く街に出ていった
道行く人はみな日常の歩行を楽しんでいるようだった

私は綺麗な写真を撮ろうとデジカメを取り出して
撮影を繰り返した

信号機に目が留まった
シャッターをためらわずに押すと
赤信号と青信号が同時に灯る信号機が
モニターに写し出された

真面目に生きてきた人へ
真面目に生きてきて
どうでしたか
真面目に生きてきて

2011年2月8日火曜日

亀と猿

ハラハラドキドキ
カミツキガメが逃げ出した
いきなり噛みますので
ご注意ください

寝ている間に
噛まれた人もいます
友達を噛まれた人もいます

カミツキガメは
神出鬼没で
修学旅行の学生のカバンの中にも
入っていたことがあります

OLのかすみさんは
フライパンだと思って
火にかけて気づきました

落ちこぼれ小学生の雷太くんは
おもちゃ箱の中のブレードを取り出そうとして
亀に噛まれました

サラリーマンの小千谷さんは
帰り道で小便をしようとして
噛まれたそうです

カミツキガメの噂がもちきりとなった街に
それに嫉妬したカミツキザルが現れました
すっとんでやってきて
腕やお知りに噛み付きます

すっぽんにも噛み付きます
釜にも噛み付きます

だけれど
カミツキザルとカミツキガメは
お互いを噛まないのだそうです

明け方近くに
今日も眠りにつこうとすると
どこからか
噛み付く気配を感じました

しかし眠さに勝てず
すーっと眠りの中に落ちてゆきました

すると
一緒に眠りの世界に
落ちてゆく亀と猿を目にしたのです

2011年2月7日月曜日

ただなにかだいじなものをしまいたがるだけで

開いていたものを閉じるとき
そのなかにモノを収める
そのことを「しまう」というのかもしれない

閉じていたものを開き
その中からモノを取り出すとき
そのことはなんというのだろう

きみはそんなことにはお構いなしに
入れたがってばかりいるのではないのか

回転しているものの上で
行ったり来たりしながら
きみとぼくはふたりで思案に暮れる

周りにはそうした人がいっぱいだ
その人達はテーブルの影で
当然のようにお互いを握り合っている

きみは
ただなにかだいじなものをしまいたがるだけで
他のことに興味がない

ぼくはきみがしまうものを探すのに熱中するばかりだ

2011年2月6日日曜日

待ち合わせ

時計のある塔の下で待ち合わせをしましょう
幾多の恋人たちがそうしてきたように
遠くに見える噴水や
石作りの回廊を眺めながら
一枚の絵の中に
私たちを美しく閉じ込める準備をして

お互いを発見したら誰もがそうするように
軽く手をあげて笑顔を見せましょう
それがきょうも始まりの合図です
いつ終わるともしれない刹那の逢瀬の

私たちは名前も所番地も捨てて
ただの愛し合う恋人同士となり
あの街並みの人混みの中に入って行きましょう
私たち自身も見失うほどお互いの中の街に溶け込むように

2011年2月5日土曜日

名作誕生シリーズ

アッ
あそこで名作がうまれている
アッ
でも誰もそれに気づかない

アッ
ここでも名作がうまれた
アッ
でもそれは僕の勘違い

2011年2月4日金曜日

2010年2月4日に来た手紙

封を開ける前から手紙がサヨナラを言っている
寒い夕に届いた薄い桜色の封筒は
あなたからとびたったひとひらの花びらなのか

夜の暗いトンネルを抜け
寒い人ごみの雑踏を抜け
ポストにやってきた
ため息のようにポトンという音を響かせて

封筒は季節を映して色を変えてきた
まるで映画の予告編みたいに
これからのふたりの未来を見せようとしていたのか

最後の手紙はいつもと同じブルーブラックの宛名
よく似合う花の切手にあなたの地名
なんど行ったことだろう
何度行くことだろうと思いながら

2011年2月3日木曜日

スキを狙って

私の値段は幾ら?
とても大事なことなのに
そのシステムの中で自ずと価格が決められてしまう
自分には抱えられないほど
大きくて小さな私なので
私の価値はさまよう
キスをする時は別世界が入ってくるので
伸ばした手に引っかかった紐を指に巻き付け
それを頼りに戻れるようにするけれど
有効かどうかは分からない
戻った場所が元の場所なのか判断がつかないからだ

相手はなにを考えているのだろう
いつも少しだけ興味を持つ
でも尋ねる術が思いつかないので
なるがままいる

私の名前はキミという
私がキミなんて
たまにこんがらがる
どうでもいいことだが
何か深い意味があるのだろうか
たぶんないだろう

幽霊を見たことはないが
私は幽霊のようにあなたの前に現れる
初めて私を見たあなたは眼を輝かせて
落ち着きなく紳士を気取る
または気取りなく話しかけてくる

私はあなたの指の一本を握り
半分を自分のために使おうとするけれど
ごちゃごちゃになって
何人もの私が現れるので
結果はわからずじまいだ

私には価値があるとみんなが言う
私もそう思う
私はやりたいことをやる
そのためにやりたくないこともやる

ただ たまに
その二つは入れ替わる
私の許可なく
私が忙しいスキを狙って

2011年2月2日水曜日

こまどり

こまどり
こまどり
こまどり
こまどり

きみどり
ぎみどり
きみどり
きみどり

くさいろ
くさいろ
くさいろ
くさいろ

2011年2月1日火曜日

帰り道

夜道をゆっくり歩いて帰っていく
パンの袋を破ってパクつきながら
空にはお月さん
通りの向こうにはコツコツ音を立てて急ぎ足の女
間をバイクが通る
私はそろそろすり足気味で歩く
手にコンビニの袋揺らして
コンクリートで覆われた橋を渡る
パンはおいしい
部屋についたら灯りをつけて
暖房をつけて
トイレに入る
トイレには綺麗な神様がいるから
だれかがそういっていたから
そのあとは
眠くなるまで起きていたら寝る
それまでの間に何が出来るか
眠った後にすることよりいいことができるか