2014年1月13日月曜日

最初の一粒を 見つけたら

最初の一粒を
見つけたら
そうしたら
次から次へと
雪の粒が空から舞い降りてきた
いつの間にか
街じゅうが
雪の襲来に会って
黙らされていく

だれかが声を上げても
空の途中で
凍えて落ちていってしまう

今夜の雪は容赦ない
過去と現在(いま)をつなげようとしているのは
空がひとのコトバに飽き飽きしたから
そんなに私たちは
無駄口をきいてしまった

雪を見張るのを飽きてしまったあとも
雪は降り続いているだろう

海の中でヒトデが時計の代わりに回転して
時を計っているが
それは空と申し合わせをした訳ではあるまい

最初の一粒を
見つけてから
私は
いつかも こんなことがあったと気づきながら
口をつぐんで
コトバにならないように気を遣っていた

あまりにも
身も蓋もないではないか
もしコトバにしてしまったら
私はこの世の牢獄に閉じ込められて
生涯出ることができないかも知れないのだから

2014年1月12日日曜日

なんだかんだが たのしくて

なんだかんだが    たのしくて
きみといっしょが    うれしくて
おひさま    ポカポカありがとう
きみも    とにかくありがとう


絵 一之瀬仁美

2014年1月11日土曜日

どうしようもない子

どうしようもない子
その少年は
自分でも
どうして自分が人と違うことをするのか
普通のことが
普通にできないのか
わからない
いましがたも
飛び出して来てフェリーに
飛び乗ったばかりだ

強い海の風が
甲板の先端に立つ哀しげな少女を後ろから襲って
スカートの裾をなんども捲りあげて
少女は
パンティーのお尻を
その度ごとにさらけ出している

(少女はたぶんそれに気づいているのだ)
少年は高いデッキからそれを見て
独り占めしていたいと願っていた

悲しいことがあると…

悲しいことがあると
人は何をすればいいのだろう

少年は
いつまでもその
パンティーのお尻を見ていた
それは永遠に続く物語のようだ

海の強い風に
パンティーを捲らせて

(何かを忘れただろうか
少女は

きっと
そのことさえ
忘れてしまっただろう)

心では

何かと引き換えに

だが少年は
忘れない







どうしようもない子は
やがてオジさんになって
しみったれた自分をさすりながら
眼だけギラギラ輝かせている

少女は
なんどか暗い海に落ちたが
その度ごとに頭上に空を見て
波を蹴って上がってきた
そしてしたたかで情け深い母となり
どうしようもない子を育てている



2014年1月10日金曜日

薄い革袋

薄い革袋に
荷物をたくさん詰めて
やぶけそうになっても
耐えて
このままやっていきます

肉や骨
毛髪などが一緒くたです
もう
くたくたですが
なぜか
新鮮で
血がかよっているせいか
冬でも暖かいのです

薄い革袋のうえに
布をかけて
紐状のもので結び
定期券を持たせて
電車に乗せます

この
革袋を愛するひともいるのです
革袋はそのときほんのり染まり
甘美な香りに
酔いしれさえするのです

皮から湯気を発して

2014年1月9日木曜日

いないいないバー

ぴたっとキマルそのポーズ
その瞬間
ドキューン×3

素知らぬ顔
アンニュイ
不埒な女なの そうそう

今日は顔の半分マスクして
立ち姿
細枝に可憐な花弁

はんなりキメタそのポーズ
その瞬間
スポーン×3

猫なで声 かすれ声
いないいない
バー×3

ヴァーサス イケメンじゃない
におう におう
メン×3

2014年1月8日水曜日

まだ行ったことのない場所が


まだ行ったことのない場所が
写真の中から誘っている
私はここでこうして生きてきたと
愚痴まじりの味わい深い話を始める

ここ日本は
2014年1月。1週間前からの天気予報が当たって
夕方から雨になった。
耳が寒さの向こうに
聞き耳を立てているのは
寂しいからじゃなく
未来の友だちを捜しているのだ

その写真には
葉がすっかり落ちてしまって
だがもう間もなく芽吹きそうな
広葉樹
雨上がりの濡れた道
その向こうに
雲の小どもが遊びにきそうな池

私は
部屋に帰ってきて
何かを整理するつもりもなく
だだ思いや視線を巡らせ
部屋の中を行き来し
昨日の残りの麻婆豆腐を
暖めて食べた

まだ行ったことのない場所が
誘ってくれているのは
幸せなことだ
そんな場所が
まだ五万とあり
その数は死ぬまで大差なく減らないだろう

私は
まだ行ったことのない場所に
行きたいし行きたくない
だが
ただどこかに
まだ行ったことのない場所があることが
私を生かしている
と言うことができるのだ






2014年1月7日火曜日

そしてあんたは

愛するとは
裂けた傷口を癒すことだ と
あんたは言った

一緒にいると
周りの空気が淀んでくるよ と
あんたは言った

離れていると
あんたを恨みたくなるんだ と
あたしは言った

波風が立たないと
不安と絶望で眠れないよ と
あんたは言った

そして
あんたはいなくなった
嵐の夜が終わった朝の
金色の日差しの矢の中
あたしもいなくなった

2014年1月6日月曜日

星屑 落下星(らっかせい)

得意なことを自慢しているあなたの
眼の輝きが好き

苦し紛れのいい訳を探すときの
あなたの声が好き

海でも見に行くかと
ぶっきらぼうに誘うあなたが好き

階段をひとりで走って上っていってしまう
気遣わないあなたが好き

お前は何がほしいんだと
決めているくせに訊いてくるあなたが好き

あなたが好きで好きでどうしようもない
のぼせちゃってる私も好き

サンダルつっかけて
夜道に星屑 落下星 探しにいこう

2014年1月5日日曜日

忘れてはいけない

冷たい風にあたり
ぼやけた気持ちをしゃっきりさせます
小さな勇気を取り戻します

忘れてはいけないもの
それは
真空の夜空から見守っている星
春風を生む暗い海
あなたが作りだすことができる未来

覚えていてほしいこと
私たち出会えたこと
離れたあとも忘れない
あなたの手の温もりが残って
いまも私を励ましている

2014年1月4日土曜日

あなたと私

電車にとびのれば
すぐに生まれ育った街に行ける
そこには見慣れた道
街路樹
駅前のビル

まだ
あなたと私が一緒にいたころの
思い出が
影のように 遺ってる

もう一度出会いたいなんて言えない
あの頃の私たち
楽しすぎて
輝いていたから

いまは静かに時を
やり過ごしている
その時を
美しい色に染め上げたくて

暮れ行く街
遠く 道の見えなくなるあたり
まだ
あなたと私
ふざけながら
歩いていそうで