もう気づくことはない
そんなふうに 思うことはなくても
毎日が新しいことの連続だった日々は
いつのまにか別世界を描いた絵のようだ
もう誤ることはない
そんなふうに 考えはしなくても
いつも間違った道に迷い込んでいたあの頃は
かさぶたとなってすでに消えた傷口のようだ
もう「いいひと」にはならない
そんなふうに 決意しなくても
すぐに人を信じてしまう性格は
皮膚に刻まれた曲がった笑い皺のようだ
もう私は私から抜け出したい
そんなふうに 望みはしなくても
そう願った日々の重い扉は
とっくに開け放たれていて出入りは自由だ
なみはさらう
りくちのものを
そのてにしたものを
うむをいわさず
ひきつれて
なみはつつむ
うつくしいもの
そうでないもの
おんどやいろさえ
同化して
なみは話す
太古と未知のはなし
いみのない繰りごと
その声がこきゅうと
まざりあったあとも
なみはしる
せつなのかがやき
むごんのよげん
なみだがかくまった
ちいさなこえも
なみはあそぶ
ほしとゆきをうずまいて
あさとよるを
ひとつにして
ふところに深海をかかえて
なみはありつづける
わたしがせかいから
しょうめつしても
心がつかれたら
重荷をいったん脇に置いて
ひと息つきましょう
ぎすぎすした衣を脱いで
日向ぼっこでも
してみましょう
好きな人と過ごした
きらめく日々を
思い出してみましょう
無垢な魂の
わがまま勝手な力を
体の芯に感じてみましょう
そして
あなたのように
心がつかれたひとのことを
見知らぬだれかが
どこかで
心配して祈りを捧げているのだと
信じてみましょう
それは全く
本当のことなのだから
幸せをそっちのけにしておいて
それに気づかない人が多い
そしてそれに気づいたときには
もうその幸せはそこにない
メーテルリンクさんが教えてくれたのは
まだ学校に行く前のこと
ルビー色の気取ったカクテルが いま
気取らない幸せを教えてくれた
もう学校も出て街をふらついている私に
君の居場所はそこではない と
ケーキの入った箱を
落としてしまいました
やっと手に入れた
大事なケーキ
ケーキは箱の中で
大けがしてしまったでしょう
私の顔からは
笑みがきえました
そのかわりに
涙がとまりません
あなたを守れなくて
ごめんね
強くなりたいと
願った夜
泥水の中に落ちた
大事なもの
私の手を引いてくれたから
私
我に返った
太陽の光を跳ね返して
眩しかった
私の
大事なもの
泥水の中で
輝いていた
泥水の中から
私は
拾い上げた
泥でよごれてしまったけれど
それは
もっと大事なことを
話してくれた
私の中に
残った
その 輝き
あなたの顔は
なつかしい村
私はそこで
暮らしてた
泉の水で喉を潤し
水鏡でいい顔を作った
防風林をかき分け
砂浜に転がり遊んだ
小高い山に登り
しっとりした驟雨を浴びた
洞窟を覗き込み
コウモリのねぐらを見つけた
あなたの声は
到来(アリバダ)の知らせ
波打ち際に
一万の亀たちが上陸した
月は姿を隠し
影は命を満たした
私はあなたを縛り
あなたは一切の夜の記憶をほどいた
*
みんなのまえでうたった暗い歌
聴かせたくない人がいた
*
強いものの陰に隠れ
弱い者をみていた弱い自分
*
寂しさのうえに横たわり
夢の中で遠くまで出かけた
*
自分の中の宇宙が自分を介して
外の宇宙と相談している
*
木の机に刻まれていた知らない人の名前
人差し指が覚えているそのなつかしい人
白い椅子に
空気が座っている
ほおづえをついて
私の話を聴いている
もうだいぶ長い時間が過ぎた
私は
さっきとまた同じ話をしている
空気が
あくびした
私は席を立って
改札口へ向かった
カードをかざすと
そこから数字が抜かれて
小さくなった
肩をすぼめていた私は
すこし
背伸びをしてみた
きいろいくまさん
わらっているよ
ひとりぼっちで
ソファーにすわって
きいろいくまさん
なかないでね
わたしもひとり
ゆうごはんはパン
きいろいくまさん
どこかにいこう
だれもこれない
かなたのさとへ
きいろいくまさん
つかれてねむる
わたしもねむる
ほしぞらがいっしょ