アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていく
私はふだん都会で仕事をして生活しているから
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていくことは
特別なことだ
アイドルは
自分が歌ってヒットしたあの歌を
歌ってくれる
伴奏なしで聴いたのは初めてだ
この歌をアイドルのナマの口から聴くことができるとは
まだ生きていて本当に良かった
アイドルは
みごとなハンドルさばきで
車を道の駅の駐車場へ入れた
エンジンを切って外に出ると
潮風とともに
波の音も聞こえてきたような気がしたが
それは錯覚だった
アイドルは
お手洗いに行き
私はアイドルの歌を口ずさんで
手すりにもたれて展望デッキから海を眺めて
目を細めて
何度となくテレビや映画で見たあの表情を作って
悦に入ろうとしたが
それはできなかった
アイドルは昨日の夜
私の部屋にやって来て
私のパンツの色を褒めて
体を揺らして
よろこびを表現した
そしてすぐに白いワンピを
ソファの上に放り投げた
白い鳥が
私の上を飛んで
風に引き戻されて方向を変えた
気づくと
アイドルは私の手を
後ろから握って
いい香りの髪の毛を私の首筋にあててきた
アイドルは
仕事に戻らなくては行けない
私はそんな無粋なことを思った
牡蠣が待っている
牡蠣が頭から遠ざかっていく
牡蠣を食べたら
殻を残して
部屋に帰るのだ
部屋には
私が収まるべき空間がある
アイドルは
私の手をとって
車へと向かう
私は
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていくのだ
*昨日の物語風の一筆書きの詩の評判が良かったので、それに気を良くしてきょうも書きました。
*おもしろいのかどうか、わかりません。