2013年7月10日水曜日

明けない夜



夜明けは来ない
明けない夜はない なんて
嘘っぱちだ
明けない夜は ここにある
明けない夜は
世迷い言を言って
甘い魔法の息を吐く

明けない夜は
ここにある
黒い心を抱えた人が
オメカシして行列を作っている
にやにや嗤いながら
薄い影を落として

明けない夜はない
と 思っていたのは
遠い昔
遠い昔でありながら
ついさっきのことのよう

明けない夜は
朝日から逃げ続けている
明けない夜は朝焼けを受け入れてはいけない
朝靄を浮き上がらせてはいけない
爽やかな「おはよう」を
どの口からも発せさせてはいけない

夜明けは来ない
だが
夜明けは近い
だが
朝は
来ることはない


2013年7月9日火曜日

刑事ドラマで追われるような

刑事ドラマで追われるような
人生が待っている
お決まりの路線をいつの間にか外れて
波乱の日々が訪れる

そしてまた
刑事ドラマで憐(あわれ)みをさそう
ひねくれ固まった性格が焼け焦げた匂いを湛(たた)える
誰もが除けて通ろうとしている

そしてやはり
刑事ドラマで脇役にしかなれない
分かりにくさと扱いにくさを身につけたそいつは
冷や飯を貪り喰う

明日はきょうの風が吹く
知らない街に明かりが灯る

2013年7月8日月曜日

ぼくのおうま

なすに
割ばし刺して
おうまさんの形

パパは帽子かぶって
ハイヨーとかけ声
おうまをはしらせ

ぼくは
手のひらをまるめて望遠鏡で
おうまさんとパパを見る

ママは天使の羽で飛んできて
ぼくとパパにチューをして
おやつですよと言いました

おうまさんにも
お水をあげてください

2013年7月7日日曜日

纏わりつくもの


耳鳴りとともに聞こえてくる声にまで
汗が纏わりつくのは
死んでいった人たちの思いが
なにかのきっかけで漏れだしているからだ

目抜き通りの商店街を
熱風が押し合いながら牛歩戦術で行進している
その混雑の中を
私たちも歩いている

脳の中の一部の領域を
人の命のことが占領していて
きょうはだれもが
それを膨張させているのは
死んでいった人たちの思いが
なにかのきっかけで漏れだしているからだ

入院している人
入院していた人
死んでいった人
自分が誰か分からないまま
でも自分として死んでいった人
入院もせずに死んでいった人
自ら死んでいった人
敵に向かって進み死んでいった人
死んでいった人の数々
死んでいった知人の思い出

商店街を抜け信号待ちのわずかなスペースに
強い日差しが照りつけ
何かが横切っていく
フイと身をかわそうとしても
なにかが纏わり付いていて
かわせない
死んでいった人たちの思いが
なにかのきっかけで漏れだしているからだ

2013年7月6日土曜日

なになにがある






振り返れば
なになにがある
振り返れば そこに
なになにがある
いま 振り返れば そこに
なになにがある
いま すぐに 振り返れば そこに
なになにがある
いま すぐに 振り返れば そこに 愛しい
なになにがある
いま すぐに ためらわずに 振り返れば 
そこに 愛しい
なになにがある
いま すぐに ためらわずに 夕日の差すほうを 振り返れば
そこに 愛しい 
なになにがある
いま すぐに ためらわずに 夕日の差すほうを 振り返れば
そこに 愛しい 前にもまして 美しい
なになにがある
いま すぐに ためらわずに 夕日の差すほうを 振り返れば
そこに 逆光に縁取られた 愛しい 前にもまして 美しい 
なになにがある
いま すぐに ためらわずに 夕日の差すほうを 振り返れば
そこに 逆光に縁取られた 愛しい 前にもまして 美しい
当り前のようにいつも存在していた
なになにがある 
いま すぐに ためらわずに 夕日の差すほうを 振り返れば
いや 振り返らなくとも
そこには 逆光に縁取られた 愛しい 前にもまして 美しい
当り前のようにいつも存在していた
なになにがある
いま すぐに ためらわずに 夕日の差すほうを 振り返れば
いや 振り返らなくとも
そこには 逆光に縁取られた 愛しい 前にもまして 美しい
当り前のようにいつも存在していた
私から離れてゆこうとしている
なになにがある

2013年7月5日金曜日

忘れたくないけど


忘れたいけど
忘れたくない
忘れようとすると
あのときの声がきこえてくる
あのときの姿が鮮明に映し出される

忘れるのをあきらめると
まだそれでは足りないのだと
囁きかけてくる
忘れるのをあきらめることさえ忘れて
今度は積極的に思い出し 考え 感情を奮わす
そして
もう一度アプローチを始める
すると
やはり
そのアプローチを見事に躱(かわ)して
私を絶望の谷に突き落とし
満足げに笑っている

いつまでたっても
何回繰り返しても
振り出しに戻る

それを知っていて
また
忘れようとする

忘れたくないけど
忘れたいひと


2013年7月4日木曜日

僕は死んでも


塀から飛び降りて
すぐに駆け出した
自分が受けた衝撃を誤摩化そうとして

まだ日暮れではないのに
コウモリが低い空を旋回して
牽制してくる
いや もしかしたら僕と遊びたいのかも知れない

でもそんなことは
気にしてはいられない

僕にはやることが山ほどある
宿題のことではない
理由もなくやりたいことが

それをやっていれば
僕は幸せだ
それをやっていれば
僕は死んでも気づかない

2013年7月3日水曜日

空っぽの器

全部失くなってしまった
そして
空っぽの器が現れた

空っぽの器の中の空っぽを
失ったら
次は何が現れるだろう

怖いもの?
それとも
いままでに見たこともない
素晴しい〈何か〉?

2013年7月2日火曜日

小さな鬼


壁にひと月遅れのカレンダー

小さなひとつのことに
頭を占領されると
他のことは後回しになる

都会の道を運転している時のように
思考は進む

目的地に到着したら
もうそこは過去の目的地

車から降りて
道を歩く

その映像を
逆回しして遊んでいるのは
古い家に置き去りにした小さな鬼

2013年7月1日月曜日

センチメンタルな絵

1

生っ白い皮膚のうえ に
白く焼き付いた傷跡

体は揺れて
撓(しな)ってもいるが
思いは
杭が打たれて
揺れられないまま
熟れてゆくのを待つのか