2012年7月25日水曜日

私船

もう死にたいと嘆いている夜は
全く死にたいとは思っていない
だから必死に生きる途を探す
夜空と朝焼けが交わる河原あたり
過去と未来の渡し舟の上真夏の静止した風に



Facebookで連載

Facebook で写真家野口勝宏さんと毎日Collaborationしている「福島の花」シリーズ。

縁側にて

真夏の午後に
縁側に腰掛けて
熱いお茶を飲んでいる人
鮮やかな緑色の湯が
喉を通過して行く
蝉の鳴き声が響く

さっきまで
お茶を飲んでいた人は
何処からやって来て
何処に行ってしまったのか

かすかなぬるい風が
縁側を廻っている

夕方の太陽は
ほどなく
真昼の太陽を押し出し
空を橙に染めるだろう

何もかも
我が身に起こることは
お茶を飲んでいた人と
すべてが同じこと

縁側は黙って
軋むだけ
樹の葉を移して
黒光りして
この夏も熱されている

2012年7月24日火曜日

そこはあそこ

次々と建物が建つ
そこに
次々と透明な塔が建つ
そこに
時が経つ
そこに
居なくなった人々が立つ
そこに
友達たちの裸体が立つ

私は後悔を隠さない
懐かしい思い出を
そこに遊ばせる
ラジオやら電話やらの電波が
そこに
留まることはなく
鳥の影さえ
通りすぎてゆく

階段を逆から昇る人
足音を吸着するフィルムを
回収するゴミ収集車

そこは
そこにいるひとにとって
あそこ

あそこは
彼らの中心

誰が発しているのかわからない声が
くちびるの奥で
君の名を呼んだ

2012年7月23日月曜日

宇宙人

さっきから猫を撫でてかわいがっている人は
半分 猫に成りかかっている
本人は気づいていないらしい

猫も 四分の一ほど
ヒトに成りかかっている

二つの生き物が
歩み寄り
混ざり合い
お互いの中に入っていくことは
よくあることだ

猫とヒトとの境界線に
夕日が沈み
星が輝きはじめる

私はその星を見て
六割ほど
宇宙人に成りかけている

2012年7月22日日曜日

友達と私は

野菜を作っている友達は
やや黒い
詩を書いている私は
やや白い

友達はやや痩せていて
私はやや太っている

太陽は友達を毎日長い時間照らし
エアコンの風は私に毎日長い時間吹く

友達と私はだいぶ違う
私は友達とだいぶ違う

私が考えている時
友達は夢を見ている

2012年7月21日土曜日

もうすぐ目薬を

目薬をさしてあげよう
愛する人よ
水晶を抱えたコーヒー色の瞳が好きだ

綺麗な円を描き
外側に広がっていき
やがてぼんやり白昼のもとに消えていく瞳
境界線からは陽炎が立ち上っている

瞼を閉じた瞳も好きだ
睫毛とともに動きやがて震えながら静止する


瞳を包んだ瞼は
こんもりと丘を作り
光沢のある黒曜石やガラスの粉が
表面で光っている

嬰児を孕み
予感の胎動を
扱いきれずに
放出している

睫毛は筆とは違う
瞼と瞳の間に
決まりごとを作っている
私は
そのあたりを含め
すべてが好きだ
大好きだ

2012年7月20日金曜日

目撃者

たとえば
すべり台の途中で
世界がわたしの前から突然溶けて
なくなって
独りだけすべり台の途中の位置に
取り残されてしまったら
一緒にいたあなたは消え去った世界で
何を頼りに生きていけばいいのだろう

あなたのことがいつも心配だ
私のことを忘れてしまう
あなたは私のことを
忘れているのではないか

とある午後
私はあなたに鍵をかけて
その鍵を飲み込んだ

あなたの中に誰も出入りできず
あなたがさらわれても
誰も気づかぬように

ただ私だけが
それを目撃していた

2012年7月19日木曜日

木の子ども

木の子どもは
父母(ちちはは)に抱(いだ)かれて空に顔を出す
笑顔の表面は
つややか

風も
やってきた小さな虫も
滑ってしまう

木の子どもは
父母に抱かれてオトナになる
清々しく薫る
花を咲かせる

誰も
その花に
見惚(みと)れないものはいない

木の子どもは
もう子どもではなくなった
だが笑顔は
あの日のまま


(李先生に)
分度器な気分がするぞ