2011年8月21日日曜日

微かな光に

古い木の家の
破れた壁を塞ぎ
朽ちかけた柱を補強して
箒で床を掃いた

屋根に溜まった木の葉を下ろして
木ぎれと一緒に焚き火をした

ほかに
なにが必要だったのか
思い出せない

乾き始めた風の向こうに
いつのものともつかない
笑顔が見える

その人と別れてしまったのか
まだ出逢っていないのか
はっきりしない

わたしは
欲しいものを手にするために
生きてきたが
欲しいものは
わたしが持っていなくてもいいものばかりだった

だからわたしは
なにかに欲されたいと願った
この世界が
わたしを爪弾きにせず
受けとってくれることを願った

誰かが
受け渡してくれるのなら
すべてを委ねたい

2011年8月20日土曜日

あなたの感じは

笑いながら話すのが
あなたの特技
普通に話していても
その声は笑い声を含んでいる

私は
あなたと話していると
つられて笑いそうになる
辛く悲しい話をしていても
そこに絶望は存在しなくなる

荒海から浜に打ち上がった昆布を海鳥が運んできて
味噌汁の鍋に入れた
例えて言うなら
そんな感じた

あなたの感じは

かっこいい

かっこをつけて生きてきた「きみ」が
かっこつけていることに疲れて
裸で生きていきたいという

僕は
「世間では
裸は目立ちすぎるので
外出するときは
服を着たら」

かっこをつけて言う

だが
内実は
そうではなく
長年
服を着ないでいい気になって
外を歩いた僕は
人々に注意されて
いよいよそれができなくなってしまったのだ

だから
「きみ」が裸で外を歩くのに乗じて
「僕」も一緒に歩きたいのだ

かっこつけないで
かっこよく


2011年8月19日金曜日

私は何もした覚えがないのに

私は何もした覚えがないのに
あの人と私の間に濃い霧が出て
風が立ち
霙が降り
雷が鳴った

あの人は悪いことをしようとしているのに
行く手に虹が出て
満月が出て
日輪が眩しく光り
小鳥がやさしくさえずった

2011年8月18日木曜日

君が夢見るものは

君が持っているものは
お金で買った物ばかり
その隙間に君が作ったものが隠れている

君が作ったものは
借りてきたものばかり
その隙間に君のものが隠れている

君が大事にするものは
思い出ばかり
その隙間に名付けられない未来が隠れている

君が夢見るものは
他人まかせの夢ばかり
その隙間に君を愛するひとの涙が光っていた

2011年8月17日水曜日

性急な性格

瓶の口をお口に入れちゃって
gkgk

急いで飲み干す必要はないのに
いつも
すごい勢いで
一気にいってしまうのね

味は後から思い出して
楽しむの?

恋もそうするの?

2011年8月16日火曜日

カジュアルなカバン

カジュアルなリバーシブルのカバンにカメラを入れて
海のある駅に降りた
小さなバスに乗り
ビーチ入り口で降りた

狙い通り
夕日が見渡す限りの世界を描き出している
海の家で真っ黒な男がホースで
ビキニの水着の女に水を掛けじゃれ合っている

その脇を通って波打ち際に近づく途中で
自分にカメラをむけて写真をとった
背景はビキニの反対側の海の家の側面の壁画だ

皮のシューズが砂に沈み
気分が砂混じりになってゆく

波打ち際から左右を見ると
左手に防波堤
その向こうに灯台の明滅

右側では
いく人かのサーファーとその連れ合い
さらに遠くには
船が繋留されて行儀良く並ぶ

波はやや強く打ち寄せ
私はその様を
躍動感ある写真にしようと
取り組んでいた

どんな時でも
写真を撮るからには
納得いく写真を撮りたいのだ
私をカメラに収めようとするひとは
今日はいない

このあとの行動は決まっていた
予定は予測通りにこなされるだろう

独りでここに来ようかどうか
さっきまでの迷いはもうなかった

気持ちは愛する人と同伴していた
そのことは
きっとに伝わるだろう

デニーズに入り
月の出を待った

月は出ても出なくてもよかった
また
見にくることが
わかっていたから

だから帰りの電車のことも
ちゃんと気にしていたのだ

2011年8月15日月曜日

オレンジの恥じらい

「オレンジジュースの中に溶けたよう」

いつもライム色のあなたが
体じゅうをオレンジに染めて
恥じらいを露わにしている

「服がくっついてぴたぴたなの。たすけてほしい」

風も止んでしまったから
あなたは
私に救いを求めるしかなった

手を差し出して
引っ張るよう促す

私はあなたに
何度も肩透かしをくっていたので
少しためらったが
直ぐに左手を差し出した

あなたは右手を精いっぱい伸ばして
私の手に捕まるかのように見えたが
その瞬間に
脇から伸びてきた別の手に捕まった

あなたの体が一瞬宙に舞うと
あなたは苦痛の表情で微笑むと
薄闇の中に溶けていってしまった

私は左手をそそくさと
しまった
恥じらいのオレンジに
身を染めて

2011年8月14日日曜日

やきもち

君は胡桃の木の下で
月を見ているんだね

ぼくはサンダルで波打ち際に立って
月を見ている

取り替えようか

君は波打ち際に立ってぼくを見る
ぼくは胡桃の木の下で君を見る
月はサンダルを履いたのだが
もう見られていないので
切なくなって
仕方なく
ウサギのついた餅を焼く

2011年8月13日土曜日

はぐれた あのこ

ねえ神さま
あのこは元気?
月夜の晩にはぐれたこ

あの砂浜で待ち合わせしようと
約束したのは
いつのこと?

その場所には いま
ドーナツ屋さんが建っている
そこで待てば
日照りや雨がよけられていいかもね

ねえ神さま
お願いします
あのこが
いいこのまま
育っていますように

わたしと釣り合うくらい
ほどよくいい経験を
していますように

はぐれたことが
愛おしくなるくらい
祝福される
再会でありますように

月が雲に隠れ
また現れたときに
その光が
あのこの輪郭を
浮かび上がらせてくれますように

わたしは
こえをかける
「ひさしぶりだね」
笑顔で
涙を流して