2010年11月10日水曜日

林檎をもって

小さな窓から世界を眺めてた
林檎をもって
外にでかけた
会社の窓から人々の様子を見渡した

ビルの中でみんなが働いている
賑わっている
とりとめもなく
手紙で呼び出されて外にでた

いつだって外にはでる
入りはしない

外から中を覗いてた
林檎をもって
中に入るため
部屋には鍵がかかってた

いつだって中には入る
出ていきはしない

2010年11月9日火曜日

BATSU

明るく素敵なあの人が
あの人の中にはもうない

いつからいなくなったのか
自分にも分からない

いつまでどうしてやっていくのか
分からないまま
きょうも夕暮がやってくる

トンビが空に円を描く
飛行機雲より大きい円

マルを貰うのはいつ以来だろう

2010年11月8日月曜日

あゆみ

強い動物の毛皮を纏うことで
荒地を渡っていく

わたしは旅人のよう
流れる雲が恋人

過去の自分は惜しげもなく捨てていく
そうしたいと願っているわけではないけれど

山のあなたの空遠く
革の私が歩いてく

2010年11月7日日曜日

夕暮れの部屋で

気づいてしまった本当のこと
言ってもいいですか

目の前のテーブルの上に置かれた
煤(すす)けたりんごのように
あなたの目の前に
投げ出しても

夕暮れの部屋で
出会ってもいいですか

今まで出会えなかった人に
リダイアルボタンを押すように
あっけなく
呼び出しても

2010年11月6日土曜日

ずれゆく質問

その写真に何が写っていますか

陽の光が差し込む大きな窓
花のない水玉模様の花瓶
大きな古い木のテーブル 
刺繍の入ったナプキンに包まれたカトラリー
開けっ放しの扉の向こうの書斎机
壁に掛けられた何枚もの額
その中には鮮やかな色の抽象画やパステルで描かれた風景
……

その写真を見てどう思いますか

私が撮った写真
その時には見えなかった
やわらかく静かにそこにある時間
寒い季節のあたたかい陽だまり
誰もいない部屋のぬくもり
凛とした空気
自分と無関係の場所
でも懐かしく魅きつけられる
……

その写真を見てどうしたいですか

すさんだ自分の生活
すさみ切れない自分の生活
ものに溢れ雑多なものに埋もれて過ぎていく
遠くを見つめて進もうとする
足元の草花を踏みつけるような日々
キラリと光るプライドをポケットに忍ばせ
たまに握り締めている

どうしたいのか
……

その写真 いただけますか

ノルウエーの北の小さな町
青い港に泊まる赤い船
冬になると太陽が地を履い
ついには登ってこなくなる
静かな燃える眼をした町の人々
オーロラを見に来た人と同じ酒場で話をする
子供たちのことや仕事のこと バカンスのこと
それらのことは写っていない

いい写真ですね

ずっとカメラを手にしてきた
ビデオカメラで仕事もした
高いところに登ったり
狭いところにも入って撮影した
いい写真が撮れる自信がない
いいと思ってもよくある写真にしかならない
よくあるような写真を目指していたのでそれでいいのだが
いい写真がなかなか撮れない
いい写真と言われるとホッとする

これからどんな写真を撮りたいですか

観たことのない風景
想像では見ることができない
インターネットでも見られない
自分がその中に入らないと見られないもの
見ているその時に気づけないもの
たとえば君と会話するときに
変わっていく風景 というのがあると思う
その時シャッターを押して写ったもの
その時 心は捕まえなかったのに
写真だけが捕まえたもの

2010年11月5日金曜日

進め金閣寺

金閣寺の金色が光りすぎている
金色すぎる
金色を通り越し別の色だ
輝きすぎだ

君がくれたCD
ジャケットの代わりにセロテープで貼り付けてある
その写真
大胆だ
その構図も
金色の建物がド真ん中に配置されている

渡されたとき
君が画像加工したと言っていた
いったい
どんな曲を入れてあるのか

いつものように
舌の先端を器用に内側に反らせて丸めながら
君が作ったCD
その写真を加工しながら
君はどんな思いを巡らせたのか

金閣寺と格闘し
金閣寺に癒され
金閣寺のことを思い出す
初めて行ったときのこと

ひょっとしたら
ふたりとも
同じようなこと
考えているかもしれない

同じようなこと

同じより
幸せな

2010年11月4日木曜日

相談

最近調子が悪くてね。
君のことがうまく考えられない。
おまけに貯金も底をつき、とっておきのアンティチョークの瓶詰も
もうない。

近くにいたネコにもソッポを向かれ
何処かに消えてしまった。

シャツのボタンは割れるし、
カメラは壊れるし
おまけに十年使った傘は盗まれた。

このまま行ったらなにがおこるか分からない。

だから、君、
どうしたらいいか一緒に
考えてもらえないか。
君の相談には乗れないが。

2010年11月3日水曜日

訪れる枯葉

夕方に眠くなって
辛い思い出が回り始める
泣いているのは百舌鳥ではない
あれは誰かさんの歌声だ

枯れ葉が誰もやって来ない玄関に訪れる
訪れて足踏みをしている

君は虫ではなく枯葉だよ

君はお札でも
アルミホイルでもない
木の葉の枯れたものだよ

ビニールの表紙の
小学時代の国語辞典には
愛 の次に
アイ・オー・シー 国際オリンピック委員会
と書いてあった。
「あ」から順番に国語を憶えようとして僕は
それをなんども読んだ

それと似たようなことをし続け
果てるとき
はて?
いつまでも地続きのどこかで
何を振り返ったらいいのか?

枯葉を頭に乗せて
何かに化けて輪廻するか

つぎは
枯葉になりたいから
木の葉に生まれたいと
カ行イ段の木に
狙いを定めて…
枯葉の意味を理解して…

2010年11月2日火曜日

電車代が高いから
旅にも行かず
旅にも行かないから
同じ場所をグルグル周回し
同じ場所をグルグル周回するから
ストレスが蓄積され
ストレスが蓄積されるから
暴飲暴食をしてしまい
暴飲暴食をしてしまうから
体がもたついて
体がもたつくから
恋人にけなされ
恋人にけなされるから
気分が陰鬱になり
気分が陰鬱になるから
夜なかなか寝付かれず
夜なかなか寝付かれないから
眼がいつも赤く
眼がいつも赤いから
コンタクトをやめ
コンタクトをやめたから
世界がボーッとする
世界がボーッとするから
眼が少し旅に出る

おしまい

2010年11月1日月曜日

日課

夢を見るのが楽しみで睡眠に入る
そこには生きている手ごたえがある
目をさますとその充足感を頼りに
次々やって来る問題をやり過ごす

闘牛場のヒーローさながら
バッサバッサと身をかわす
だが最後には
決着をつけなければならない
だからこのシーンは未完のまま終わる
そこにはうらぶれた路地裏がある

トボトボ歩いて帰るしかない
夜明けのカラスが鳴いている
これからがお楽しみ

入り口を入ると
僕はほっとする
美容院の二階が今日のぼくの住居だ
さあ
でかけよう

昨日から練っていた計画どおりに
なにが出るかは
終わるまでのお楽しみ
死んでも平気
生き返るから