2013年4月2日火曜日

社長が帰る

社長が帰ってきた
煙草の匂いも帰ってきた
古い皺だらけの財布をポケットに
おみやげの冷凍ピザを持って

専務は部屋でお出迎え
僕はピザを受け取り電子レンジへ
妹は部屋で漫画描いてる

社長は着替えて晩酌の準備
焼いたタラコを専務が持ってくる
ビールの瓶と一緒にお盆に載せて

2013年4月1日月曜日

桜前線から逃げながら


自分が偉いんだと
つい勘違いしてしまう
右と左を間違えて
シャツがうまく着られない

うつ病らしく生きるのだ
誰も待ってはいなくとも

朝日の時間に夕日が出て
生活必需のノルマをこなしつつ

きみの大事な誇りはとうに
埃だらけ

曇った空気を胸にいっぱい吸い込んで
自分のなかの何か
余裕はないけどゆっくりと
芽吹くのをまっている

世間は春で浮かれているし



桜なんかきらいだ
とっくに飽き飽きした
桜の花から逃げて
北上したり南下したり

だけどそれは現実ではなく
ことばだけのこと

ミルクも賞味期限を知らぬ間に過ぎて
流しのステンレスに広がりたい

何もかもが壊されるため
理由を待っている

捨て去る勇気さえ手に入らず
何が必要か
迷い慣れても また
忘れて繰り返し

みんな自分のことで頭がいっぱい

それが憲法に成れば
反発するかな
世間の風は世間の噂を作って
ぬるい春を作っていく

みんな自分のことで胸もいっぱい

2013年3月30日土曜日

さくらがさいた

さくらがさいたと
さわいでる
さわいでいると
ひろめてる

さくらのしたで
さがしてる
ほんとのしあわせ
そこにない

さくらがちると
さがしてる
つぎにさくばしょ
さがしてる

さくらのはなは
すぐにちる
ひとのいのちは
いつちるの

さくらはなにも
おもわない
ひとがかってに
おもうだけ

2013年3月29日金曜日

束ねた髪の 後ろを歩く 歌詞


束ねた髪を振り子のように
揺らして歩く
月夜の道を

束ねた髪の振り子を見つめ
一緒に揺れる
リズムをとって

束ねた髪が
かすかに香る
あなたはあまい
果物のよう

宙に浮かんで
実っている
あなたはあまい
果物のよう


2013年3月27日水曜日

きのうより遠い朝


滝に向かう道
雨上がりの草が
半ズボンの足に
かゆみを移してくる
何か不満があるのか
ただ遊んでほしいのか

湿った空気でもさわやかだ
早足で歩き始めたら
心臓がリズムを合わせて来た

気持ちはずっと
躯の中にとどまっていて変わらない

滝の音が近づき
好きな「きみ」の鼓動が
香りとともに脈打ち
息が上がっていく

滝壺近くの草は
夜になっても
シャワーを浴びている

私がシャワーを浴びたのは朝
そして
二人で浴びていたのは
きのうより遠い朝




2013年3月25日月曜日

夜の桜


この世には
裏切りも むごいこともあると
あなたはいつか教えてくれました
そのおかげで
私は美しいものを愛でることができるように
なりました

でも
そのことは
だれにもいいません
自分自身にさえ
もう語りかけることは
しないのです

そのせいで
咲き誇る夜桜の下
あなたにそっと感謝する気持ちを
小石のように堀に投げ入れることも
できるのです

(友だちの夜桜の組写真によせて)

2013年3月24日日曜日

花見をしてる間に

花見をしてる間に
かわいい子どもが死にました
花見をしてる間に
なにもかもがなくなってしまいました
花見をしてる間に
騒がなければいけなくなりました
花見をしてる間に
恋人は共有されました
花見をしてる間に
ムラ社会が成熟しました
花見をしてる間に
太郎を眠らせることに失敗しました
花見をしてる間に
次郎は亡命しました
花見をしてる間に
多くの人が死にました
花見をしてる間に
死者が息を吹き返すでしょう

2013年3月23日土曜日

ありそうで なさそうで

たのしそうで
たのしくない

あぶなそうで
あぶなくない

うまくいきそうで
うまくいかない

ただしそうで
ただしくない

あらわれそうで
あらわれない

きらわれそうで
きらわれない

おわりそうで
おわらない

そのはんたいも
そのまたはんたいも

ありそうで
なさそうで

混乱してる
自分が見てる

2013年3月22日金曜日

自転車で行くんだ


自転車で行くんだ
夕暮れの街
休憩室でインスタントのうどんを食べてから
埠頭の横を駆け抜けて
商店街の坂道を下り
バスを追い越して

大好きなあのひとは
私のことは忘れてと
明け方の夢の中に
わざわざ言いにきた

忘れはしない
憶えたままどこへでも
行ってやる

山際の公園に来ると
すっかり暗くなった夜空に
無数の星が現れて
巡っていた

2013年3月21日木曜日

空白に


世界には空白がいっぱいあって詩を書き入れることができる
埋めきれないほどの空白に
幾らでも文字を埋め続けていくことができる
それはたぶん
一生かかっても終わることがない
それはとても
豊かなこと
それはとても
楽しくワクワクすること
幸せなこと

いま
ここに一冊の古い本がある
時代遅れの本みたいだ
古びてくすんで日に焼けて
それでも消え去ることなく
むしろ なおさら
空気の中で輝いている
内側には多くの文字を記して
余白の方が少ないといえるが
ここにも また
私は詩を書く
文字を書き入れることができる
印刷された文字の周りに
デザインの中に

世界は
余白を埋められるのを待っているかのようだ
そう感じるのは
宇宙が広がっていっているからに相違ない

星のインクは銀糸のごとく
月のインクは金糸のごとく
血の色と白色を縫って
洗濯物のように空にかざされていて・・・