黒い雲
やって来た
友だち
くすんだ服
笑顔がゆがんでいる
友だち
いらいらしてる
踵が取れた靴
友だち
苦しい言い訳
部屋が散らかってる
友だち
寒い日
閉め切った窓
友だち
不器用
役立たずの信号灯
友だち
サイレン
ヘンテコな夜
友だち
埃っぽい乾いた冷たい空気は
排気ガスを引き連れて視界を煙らせているが
僕はこの道を歩いてゆくのだ
木の枝は寒色だけとなって
大きな鳥の巣を引っ掛けているが
きょうもその下を僕は歩いて行くのだ
ひび割れた道路にできた水溜りは
ゴミが溜まり凍って光を反射しているが
僕は違う国の言葉で自分に掛け声を掛けながら
校門を出て地下鉄の駅に
地下鉄に乗って目的の駅に
駅から出て人々の集う広場に
広場を抜けてデパートの食堂へ
夕食を食べに行くのだ
何が入っているか
どう作られているかは分からない
それはどうでもいい
高くなく程よく美味しい食べ物を
ゆっくり食べられればいいのだ
注文票に書き込んで
サービス員を呼ぶ
サービス員は職名を呼び捨てで呼ばれ
無愛想に近づいてきて
一つ二つ質問をすると
そそくさと計算し代金を要求する
財布を出してお金を払うとつり銭が渡される
しばらくすると
目的の食事が運ばれてきて
テーブルに置かれる
ここから自分の時間となる
日本にいた時
僕は過去に縛られ
鈍く回転し続ける日々の歯車に
髪の毛や衣服を巻き込まれて
逃げ出すことができないでいた
連続的な自分は
いつも過去と未来を繋ごうとしていた
この地にきて僕は日々の歯車から遠ざかり
異国という船に揺られて
足元がおぼつかないまま暮らしていた
新しい友だちは
だれも日本語を喋らなかった
僕は覚えたての言葉を一つひとつ並べて
自分自身のことを話し相手の身の上や夢の話を聞いた
外では日が沈み
夜の街が夜の人の心と交わって
いつの間にか昼間を追いやっていた
昼間の人々は夜に絞め殺されてしまったのか
闇を照らす光に額を光らせて
夜の流れにしがみつきつつ
流されていく

詩人が夏の間暮らしている
小さい家には
キレイなものが
ほどよくあります
小さい家なので
沢山おいておくことはできないから
誰が作ったものなのでしょう
作者の名前などなくても
キレイなものはキレイです
名前を背負わない心地よさで
輝いています
自分が輝いているのではありません
太陽が輝き
空の明るさを透過させるときに
そのお裾分けで輝いているのです
詩人はその
キレイを見て
時には 触ってみて
それを詩にしてしまうのでしょうか
詩にならなくても
ただそのままでもキレイな言葉で
(2012-08-18 撮影/マツザキヨシユキ)
「きれいですね」
「きれいでしょ」
「金平糖を主役に撮ります」
(2012-08-18 撮影/マツザキヨシユキ)
「泣きたい気持ち」は
泣けば、何処かに流れていくでしょう。
流れていった「泣きたい気持ち」は
また、いつのまにか、戻ってきて
あなたの傍らにあるでしょう。
それは、あなたの
「泣きたい気持ち」ですか?
どうやって区別をつけているのですか?
私の「泣きたい気持ち」は
いま、どこに行ってしまったのでしょうか。
新幹線に乗って、田舎の川を超えて、
土埃の道を通り、
あの山の中の小さな小屋の木のテーブルに腰掛けて
ひねくれてジューを飲んでいるのでしょうか。
時の流れを見ようとして
空中を神妙に探しているのでしょうか。
暮れゆく外の景色を
呼吸とともに胸に容れようとしているのでしょうか。
「泣きたい気持ち」は
帰ってきますか?
それは誰かの気持ちと
入れ替わっていませんか。
名前はついているのでしょうか。
「泣きたい気持ち」が
帰ってくるのを、こうして待っているのも
変ですね。
木下くんが
木の上にいて
ぼくを呼んでいる
小山くんが
広場で
野球をしようと誘ってくる
栗山さんが
喧嘩はやめなって
梨を手渡してくれる
反町くんが
村上さんと
デートしている
谷川さんが
湧き水を飲んで
冷たくておいしいって言う
君島さんが
竹島は
私たちの島だという
この鍵に合う鍵穴は
どこにあるのか
長いあいだ探している
鍵を握りしめて
錆びないように手の油を摺り込みつつ
この鍵穴に合う鍵は
誰が持っているか
探している
違う鍵を無理やり突っ込まれて
壊れてしまうことを怖れながら
また同時に夢見ながら
片っ端から
鍵穴に鍵を突っ込み
ぐるぐる回してみる
入ってきた鍵は
この扉をなかなか
開けることができない
鍵と鍵穴は出会えるのか
バラバラにされた
二人
出会えた暁には
扉の向こうに
何が待っているのか
鍵穴は鍵と話し合いたい
誰にも見られないように
誰にも聴かれないように
鍵穴を照らす灯りも消して
この空気の匂いはあの時と同じ
初めてここにきた時に胸に吸い込んだ
いい匂い
それは未来の希望そのもの
太陽が照りつけても
雨が降り続けても
なくなることなく
胸に芳っていた
だが
何時の間にか忘れてしまっていた
その匂い
いま
突如その匂いと再会し
目の前に
希望の後姿が現れた
希望の顔が見たかったら
追い越して
振り返らなくてはならない
一からやり直しだが
初めてやるのと変わらない
その匂いに誘われて
そわそわ
何もかもを
始めようとする
知らない土地を訪れた
歳若い旅人のように
やることがなくて
人の集まる場所に行って
道に立って
行き交う人を見ていた
暑かったので
ノースリーブで
背中は裸に
あやとりみたいな紐
Tバックにして足も出した
悲しかった
その上寂しかったので
誰かと出会い
バクチに出たかった
分かってくれない人は
そのままでいい
鈍いやつはキライ
私はニブくないから
キレないし
綺麗ではないけど
綺麗だと言ってくれる人は
嘘で言っているのではないと
わかる時がある
香林坊から片町へ
私は夜の仕事をしている女たちみたいに
なりたくないが
よく考えたことはない
どこが違うのか
どこが一緒なのか
私の脚は細くて長い
光を反射して
たまに見とれてしまい
自分のものと思えなくなる
あなたのものでもないけれど
これから
あなたを探すのよ
いやらしいひとは
私が泣く時 かえって勢い良く笑っている
いやらしいひとは
私の知らないところで私を馬鹿にして楽しんでいる
いやらしいひとは
いやらしくありませんという顔をする
いやらしいひとは
いやらしいひとだと薄々ばれている
いやらしいひとは
むかしはいやらしくなかった
いやらしいひとは
途中からいやらしいひとになったのだ
その原因は
私にあるかもしれない