2014年5月11日日曜日

ことばでないものでかたるもの

ことばでないものでかたるもの

公園の錆びたベンチの上で
行きずりの風と一緒

目に入ってくる
下弦の月

ツツジが薄暗がりで色鮮やかに
たむろしているのは
いまの私たちとおなじ

誰もいない場所で語ること

原宿駅のホームにせり出した
神宮の杜の緑
その幾千枚の葉

ことばでないものでかたるもの
涙をこぼさずに眠りについたもの

さっき
表参道で行き交っていた人の群れ
ぬるい空気をかすめて
上空を飛来する
尖った鳥の嘴

2014年5月10日土曜日

逃げた鳥

小さいころ
私が窓を開けて逃がしてしまった
妹の鳥が
森林の上空をさまよい飛んでいる

恨み言を言っているのかと思ったら
もうそんなことは言っていないよ
という

ほんとはずっと心配だった
きみのこと
だれにも言わなかったが
わすれることもなかった きみ

いま
太陽の下で
紙に書いて告白します
窓から逃げていったきみの生きる道は
どんなにか
変わってしまっただろう

私が窓から逃げ出したのは
きみのことがあったから
帰る窓は
なくなてしまったけれど
きみが恨んでないと知って
私もきょうから
恨み言を言わずに
生きてゆける

このまちの上空を
さまよい飛んで


こまったもんだい

いぬをハグするおんなのひとが
いぬにかおをなめられている
きれいにけしょうをしていたが
はげてしまっている

わたしは
みてみぬふりをする
わたしはあんなになかのいいひともいなければ
いぬもねこもいない
あのなかのよさは
どこかいたいたしいとかんじてしまうから

ひとしきり
なめられおわったおんなのひとが
わたしにちかづいてきて
あいさつをする

さめたあいさつだ
わたしは
けしょうがはげたはだを
いたいたしくおもうが
おんなのひとは
それをきにしているようすがないので
わたしはじぶんだけがきをつかっていることに
いらいらしてくる

しかしかおではわらっているので
わたしはきっといやらしいにんげんになってしまっているのだ

なんということだ
いぬをはぐして
かおをなめられるおんなのひとのおかげで
わたしは
こころがくもってしまった

どうしたらはれるのだろう
いっこくもはやくおんなのひとからはなれて
すきなジェラードでもぺろつくか

あ まてよ
ジェラードのきもちにわたしいっしゅん
なってしまった
ああ
こまったものだ

2014年5月8日木曜日

ゆめのなか

ねむるとき
むねのなかが
そわそわして
それがいやだから
ずっとおきてあそんでいたいのに

だれかが
わたしを
ひきずりこんで
むねのなかが
そわそわして
わたしが
どこかへ
いってしまう

いきなりみえたのは
みおぼえのあるばしょ
だけど
みんな
いつもとどこか
ちがってる

わたしが
どこかからわたしをみている
これはゆめのなかなのか
たしかめてみたら
どうもゆめではないような
きがしてしまう

おきたあとに
かんがえてみると
やっぱりあれは
ゆめのなか

ゆめのなかのわたしは
わたしのなかで
ねむってしまったんだ

きっとねむるとき
むねのなかが
そわそわしたでしょう


2014年5月7日水曜日

か行の歌

きってをはって
てがみをだした
きっとへんじは
こないでしょう

きっぷをかって
このまちにきた
きみとは
けんかばかりです

きいてほしくて
でんわをかけた
きらわれそうで
すぐきった

きつねのこども
きままにさんぽ
きいろいこすもす
コンコンコン

2014年5月6日火曜日

アミーゴ シルブプレ

アミーゴって
ぼくは いった
いみは わからないけど

ごろにゃーごって
コジイが いった
ぼくには
いみは わからないけど

シルブプレって
ぼくは わらいながら いった
ぴちょぴちょぴーって
ピーニョがいつものように いった

ごはんできたわよって
ママがきて いった
ぼくは
いただきますって
スプーンをもっていった

テレビが
うたをうたってた
おちゃわんが
かちかちっていった

2014年5月5日月曜日

おさるのべんとう

おさるのべんとう
なかみはなあに
のぞいてみよう
おいしそう

しろいごはんに
おかかにうめぼし
こげめのついた
たまごやき

ぼくのべんとう
おやつはなあに
らっぷにつつんだ
ばななはんぶん

おさるとおなじ
だけどおさるは
まるまる1ぽん
ぼくははんぶん

さびしいな
さっちゃんの
うたといっしょだ
おさるはいいな


2014年5月4日日曜日

森の化石

森が白い球を隠し持っている
初夏の日
私はそれに気づいた

森は青い空を背景に
森のような顔をして
佇んでいる
(森は自分が森ではないと
 自ら思おうと努力していた)

森は
人の眼を信じていないので
高をくくって
堂々と なし崩して
白い球を高く掲げている

森は油断し
木々に注意をうながすこともしない
昔はそうではなかったのだが

森は淡い夢を見ている
その白球を
あの恐ろしい強打者めがけて投げ込むことを
投げ込まれた白球は打者が翻弄する隙間もないほど速く
おそらく音速で捕手のミットに収まる

その一部始終を
私は目撃するだろう
森は完全に敗北するだろう
森としての役目は
その時終わる
森の木々は
もうただの木の一本一本となり
化石とともに
地に横たわる道しか残されていない

2014年5月2日金曜日

名もない命として

空気が閉じ込められた
一粒の氷
グラスの中で揺らすと
心地よい音がする

私も
心地よい音で
鳴りたいと思う

遠い雷雲から落下した滴が
地を這って希った果てない夢を
この喉で受け止めて
声にしたい

星空の電波で
この星の人に伝えたい
人としてではなく
名もない命として

2014年5月1日木曜日

ビルのガラス窓に映った雲が
流れていく

あの雲は友だち
雨を降らさない雲は
何のために漂っている?

私たちを見下ろして
気分がいいだろう
きっと自分の小ささを感じて

大志を抱いているだろう