奇跡は何食わぬ顔をして
あんパンを食べている
ところで
そのあんはうぐいす色であった
奇跡はハッとして
帽子に手をやった
鳥のフンかとおもいきや
なんと金貨だった
奇跡は青空に
軌跡を描いて
行くべき道を
教えてくれたこともある
奇跡なんか起きたことがない
と言っている人がいるが
なんと滑稽なのだろう
気づかないなんて
☆蛇足
(奇跡はあまりに
ありがたがられるので
ありふれた格好で
ドアががたっと開くの待っている
ドアが開いたら
やさしい日差しが
あるいは
微かな風邪が
頬に触れるだろう
そのとき・・・・)
ほしいものができた
買うことはできない
ほしいもののことを
ずっと考えている
ほしいものは変わらずに
そこにある
私は少しずす変わっていっていて
ほしいものは
気配を変えない
落ち着いている
瞑想しているのだろうか
あるいは眠っているのか
私の瞼は重たくなってくる
私はその場所から姿を消す
夢のなかでは
知り合いの女が
腹から血を流してもがいている
近くにその元恋人が立って
真っ二つに割れたiPadで
病院を検索していたがその過程で
ほしいものをみつけ
そちらに夢中になってしまっているようだ
私は女に
大丈夫だからと言って
女のことを気遣いつつ
助けたいと願った
私はこの女をほしいと思うと同時に
ほしいものリストに追加した
あなたがこのよにうまれて
よろこんだひとはいたが
かなしんだひとはいなかった
あなたがかなしみのなかにいるとき
くうきはバリアをつくって
あなたをまもろうとした
あなたがこのよにうまれて
やがてあなたはめをひらき
うつくしいものをみた
いいかおりをかいだ
それはあなただけのものだ
いま
まちにながれはじめたおんがくも
よくきいてみるといい
それは
あなたのためだけに
かなでられている
おんがくだ
と
わたしはおもっている
はなをだいていた
おんなのこ
いつのまにか
じぶんも
おはなになっていました
みんながくちぐちに
きれいだと
いいました
はなをだいていた
おんなのこ
かれていく
おはなも
だいじにしました
みんながくちぐちに
あわれだと
いいあいました
はなをだいていた
おんなのこ
じぶんは
きれいじゃないと
ないていました
みんなはくちをつぐんで
ひとことも
こえをかけませんでした
はなをだいていた
おんなのこ
かれしが
きれいだよと
まいにちきすをしました
みんなはくちぐちに
おにあいだと
いいました
はなをだいていた
おんなのこ
はなの
たねを
まきました
みんなはどんなはなが
さくのか
めをとじてかんがえました
こそこそと
みちのはじをあるけば
どろみずにはまり
こえをたてずに
ちかづくとちゅうで
ころんでたおれ
みようとすれば
そこにはもうなく
さわったときには
やけどしたっけ
のぼっていくと
みちはなく
くだっていけば
がけからおちた
わたしはさいきんこんなぐあい
だからとにかく
だいじょうぶ
コンサートが終わり
一つの家族が薄暗い道を歩いている
命のかたまり
音楽はしつけ糸
靴はクッション
まとったユニクロのウルトラライトダウンは
隠し事を欺く
足取りは恋心の成れの果て
夜の星空は
寒い風に散る涙を映した偽物
ゆらゆら
ゆれています
ふらふら
しています
うごくもののうえ
かわりゆくかたち
うまれてくるもの
きえさってゆくもの
ゆらゆら
ゆれています
ふらふら
しています
ゆらゆらゆれる
しんきろうのまどから
みわたします
せかいは
やはりゆらゆらゆれて
そこにたつ
ひとはふらふらしています
ふらふらしながら
どこかに
たよるものがないか
めをまわしてさがしています
私の考えは
鉛筆で書く
文字を書き間違えるように
考えもよく間違えるから
私の思いは鉛筆で書く
書き終わった途端に変わるから
きらいな人も好きな人に変わるから
私の未来は鉛筆で書く
あなたが消して書き直せるように
未来は独り占めできないだろうから
絵 一之瀬仁美
いつまでも
ここにすわっていたい
この席に
いまは
駅前の
クリスマスのイルミネーションを借景に
珈琲の香りが漂い
ほどよく賑わっている
今ふうのカフェだが
まわりのひとが
すべていなくなり
たてものに蜘蛛の巣が張り巡らされ
壁は剥げ落ち窓は割れ
寒風が吹きこんでも
街が廃墟となり
行き交うひとが皆無となっても
私は
この席に
すわっていたい
私の思いは
強く不変であるに違いない
私はいたい場所に
いたい
それが私の抵抗だから
それが私がいる意味だから
あやまちをくりかえし
いきてきた
いきてきたといま書いたのも
またあやまち
あやまちにあやまちをかさね
あやまちの塔が建つ
あやまちの塔を自ら破壊して
あやまちの道をひきかえして
あやまちの川のほとり
誤って正しいことを
水にながす
あやまちで
日が暮れて
あやまちの夢にめをさまし
誤った名を呼んで
ふたたび眠る
あやまちをくりかえし
いきつづける
くらしをよくしようとする
だがくらしはよくならない
すべてがあやまちだから
あやまちの躯を
正しいもので染め
正しさというもので染め
中身も
ねこそぎ入れ替えなければ
それでも
あやまちをおかすだろうが
あやまちには
気づかなくなるだろう