2012年3月1日木曜日

包帯に巻かれた方策

全身がひりひりして
胸の中で灼熱の太陽が照っでいる
腰のあたりには巨きな水牛が立ち往生し
針金で吊られた心臓が
干からびながら打っている

木霊は耳の奥で歪み
三半規管を嵐が弄ぶ
このような場所に
魂を隣接させ
置いておくことは
ためにならない

生暖かい湾に沈めて
海底魚の餌にすべきだ

私は書きました

手紙を出したいので
手紙を出しました

書きました

手紙を読んで欲しいので
手紙に返事が来た

書きました

返事の手紙に愛が籠っていて欲しいので
愛されていた

書きました

そうして書いているうちに疲れたので
眠りました

書きました

2012年2月29日水曜日

雪が降っているが

私の名前には
いつも雪が降っている

松の木の枝に
雪が積っている

月が様子をみに来ているが
キザな詩を書いて良しとしよう

待っているよりも
出かけて行け

帰ってしまうよりは
待ちなさい

2012年2月28日火曜日

近くにいるあなたに

近くにいるあなたに
話をする
声を出さずに
気持ちを露さずに

近くにいるあなたを
たまに見る
表情を変えずに
息を止めて

近くにいるあなたを
遠くに連れて行く
傘をささずに
雨や雪の中を

近くにいるあなたに
説明しない
嫌われても
奇妙に思われても

近くにいるあなたに
優しくしよう
あしたか
あさってには

2012年2月27日月曜日

あなたを忘れるために

あなたを忘れるために
生まれて来たの

今日が去って行くために
太陽を沈めるの

ごしごし掃除して
なかったことにするの

なにも残らない
目を凝らしても
なにも聴こえない
耳を傾けても

明日も生きて行くために
私をベッドに放り投げるの

放り投げた私は
なかったことにして

目が覚めたら また
あなたを忘れるために
生きていくの

ポエガールの図 6次元

2012年2月26日日曜日

失われたもの

ひまわりが咲いていたから
あれは
夏だったのだろう
青空の向こうから
一人の若い女がやってきた

私の前で微笑むと
声も立てずに
走っていった
私は
追いかけるしか選択肢がなかった

それから
雲が流れる空を眺めながら
草むらに寝転んで
耳許に草の葉擦れの音を聞きながら
私たちは時間が経過するのも忘れて
永い間お喋りをした

疲れて眠る子どものように
そのシーンが回転しながら飛び立っていくのを
草むらを包み込む地上から眺めていた

青い空は夕焼を映し
ひまわりはうなだれて
自らの目的を失っていた

2012年2月25日土曜日

絶望の谷で

首をくくろうか
と 君は言いかけて
その言葉をのみこんだ

振り向いた顔が
あまりにも寂しげで
もうこれ以上どうにもならないと
悟ったから

ビルの谷間には
絶望が溜まっていた
おまけに
冷たいビル風が
埃を舞い上げて吹き荒れていた

私たちは
後ずさりしないでいるのが
やっとだった

首をくくろうか
と 言いかけて
君が 発した言葉は

たかを
くくろうか

私たちは
か弱い
一歩を踏み出すだけだった

2012年2月24日金曜日

去っていく者

君の家に行ったのは
夏の終わりごろ
そのころの僕は毎日
自分の夢の中の道を必死に
歩いていた
君は
お母さんの作ったカレーとデザートを
テーブルに並べながら
君の夢と未来と今の生活とを
混ぜこぜにして語ってくれた
僕は
カレーを食べながら
君の夢と僕の夢が
一緒の世界にある幸せを感じていた

あれから
もう随分と時間が経ち
あの頃の世界は
過去に流れ去り
夢さえも見えないところに行ってしまった

君はいま遠くの街で
何を考えているのか
僕は
一度この街をはなれて
また
戻ってきたんだ

季節は春になろうとしている
君の街はいまどんな天気なのだろう
僕は
また
君のうちに行くことが
できるかい?

カレーを食べながら
また夢を重ね
語らうことができるだろうか

冬が
春に追いたてられて
去ろうとしている
さよならを言うべきか

いや
春に挨拶するのに精一杯で
不器用な僕は
去っていく者のことを
気遣うことができない

2012年2月23日木曜日

滅多にいない

西に向かう電車に
多勢の人が乗っている
時間を戻せば
まちまちに東に向かっていた
大勢の人は
なにかを掴んで今電車に
乗っているのでしょうか

いいえ
そんな顔をしている人は
見当たりません
滅多にいないのでしょう